LPCVDと拡散炉の技術と装置産業

掲載日 2025/09/01

1.      LPCVD/拡散炉の概況
半導体プロセスの中で薄膜形成技術は重要なプロセスである。その中で今回はLPCVD(減圧化学的気相成長装置)と拡散炉の装置と産業について紹介する。

LPCVDは、Low Pressure Chemical Vapor Depositionとも呼ばれる。常圧CVD(APCVD)が大気圧下で行われるのに対し、LPCVDは約10200Pa(約0.11.5 Torr)という低い圧力下で成膜を実施するための装置である。
APCVD
では、原料ガスとウエーハ表面の反応が速く、ウエーハの中心部と周辺部で膜厚の均一性が得られにくいという課題が生じるが、LPCVDでは圧力を下げることでガス分子が衝突せずに移動できる距離である平均自由行程が長くなり、ウエーハ全体にガスが行き渡ることで、膜厚や組成の均一性向上が期待できる。

拡散炉は、酸化拡散炉とも呼ばれ、1000℃を超える熱でウエーハ表面に酸化膜を形成するための装置である。ウエーハの材料で多く使用されるシリコン(Si)は酸化することで非常に絶縁性や保護性などに優れた酸化膜(SiO2)を形成するため、拡散炉はそれを形成させる装置として古くから活用されてきた。かつては、横型酸化拡散炉が多く使われているが、現在は縦型酸化拡散炉にその主流が移っている。

 

2.      LPCVD/拡散炉の歴史

LPCVDは、1970年代前半からLSI製造に使用され始めた。1971年に富士通がBPSG(ボロンガラス)膜を成長させるためLPCVD装置を使用したのが最初だとされる。
高集積化とともに膜圧の均一性などの重要性はさらに増していき、LPCVD法による成膜の必要性が高まり、1970年代中頃から、多結晶シリコンと窒化シリコンのLPCVD装置が、国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC)、AMI Semiconductor(現ON Semiconductor)、Thermco(現東京エレクトロン)、Unicorpなどから一斉に販売されるようになった。[4 1970年代後半には、酸化膜(SiO2)などの成膜にも展開された。

拡散炉の歴史は古く、技術の根幹は1950年代に遡る。開発当時の半導体メーカは、自作の横型拡散炉でトランジスタを製造していたが、初期の拡散炉は均一な加熱が難しいなどの課題があった。1960年代に米国のLindberg社が、石英管の外側にヒーターを配置するホットウォール型横型拡散炉を開発した。これは石英管全体を均一に加熱することで、ウエーハへの安定した熱処理を可能にした。日本でも、国際電気(現KOKUSAI ELECTRIC)が日立と共同で国産化に着手し、1963年にはホットウォール型横型拡散炉「DD-1」を販売した。1964年にはLindbergからスピンアウトしたThermcoが、この分野の主要なプレーヤーとして台頭し、1968年に、東京エレクトロンと提携、合弁会社テルサームコ(現東京エレクトロン テクノロジーソリューションズ株式会社)を設立して国内生産を開始するなど、国際的な企業連携が進展した。しかし、半導体の微細化とウェーハの大口径化が進むにつれ、横型拡散炉はウェーハ挿入時のパーティクル発生や酸化膜形成の問題が顕在化しはじめた。
これらの課題を解決するため、縦型拡散炉が開発された。ウエーハ径が150mmから200mmへと移行しはじめると、縦型炉の優位性が明確になり、日立と国際電気が共同開発を進め、1986年に国際電気から「VERTEX」シリーズが販売された。この成功を受けて、光洋リンドバーグ(現ジェイテクトサーモシステム)、TELサームコ(現東京エレクトロン)、ASMIも相次いで縦型炉市場に参入した。[6

縦型拡散炉は、パーティクルの問題解決に加え、省スペース化やプロセス均一性の向上といった多くの利点があり、現在拡散炉の主流は、横型から縦型への完全に移行している。

 

3.      LPCVD/拡散炉の市場動向

LPCVDの世界市場については、日本企業が大きな存在感を発揮している。市場全体の規模としては2,3797,700万円であり、企業別シェアを確認すると東京エレクトロンとKOKUSAI ELECRTIC2社で82%と、日本企業で市場の8割を寡占している。ただし、最近は中国の最大手装置メーカであるNAURA11%のシェアを獲得しているなど、その勢力を増しつつある(図 1)


図 1 縦型CVD装置の市場シェア (GNCデータベースより作成)

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