半導体製造のESGを担う排ガス処理装置の動向

掲載日 2024/07/16

半導体の製造プロセスにおいては多種多様なガスが用いられ、その中には排出にあたって適切な処理を求められるものがある。これらのガスの処理にあたって、製造装置の近傍に設置するのが排ガス処理装置(スクラバ)である。 

近年では有害物質の無害化だけでなく、ドライエッチングやCVD装置のクリーニングに用いられるCF4やSF6のようなPFCガスも地球温暖化対策の一環として処理が求められている。また、排ガス処理装置そのものに対しても、燃焼処理によって発生するCO2を削減する観点から、プラズマ式などの電気による処理へと移行を求める動きがある。これはスマートフォンなど最終製品を販売する企業によるカーボンフットプリント追跡の動向と連動する。 

排ガス処理装置は半導体製造プロセスにおける環境対策の一端を担っており、台TSMCはサステナビリティレポート中に大気汚染対策中の項目で排ガス処理装置に言及しているなど、半導体製造メーカにとってもESG(環境、社会、ガバナンス)投資の一環として存在感を増してきている。 

今回は排ガス処理装置を製造する各社の動向をまとめた。 


排ガス処理装置大手企業として、典Atlas Copco(子会社であるEdwardsで展開)、独DAS Environmental Expert、カンケンテクノが挙げられる。この3社で2023年の全世界シェアの7割を占めている。この他、半導体工場が多く立地する地域でリージョナルなシェアを獲得している企業が存在する。ウエーハ製造プロセスの装置に付随する装置であるため、地域ごとの市場規模はその地域の製造装置の市場規模に比例する。 

2023年の排ガス処理装置の市場規模(図1)は前年比2.9%増の1,492億6,100万円であった。前年に対して微増になった要因として円相場の下落の影響が大きく、米ドル建てでは前年比6.5%減となるため、実際の景況感としてはこちらの方が近いものと思われる。 

地域別の状況を見ると、中国市場のシェアが最も大きく、全体の28.9%を占める431億700万円であった。以下、台湾(19.0%、283億3,600万円)、韓国(18.0%、269億1,700万円、日本(16.2%、241億600万円が続き、東アジア地域で8割以上のシェアを占める。

日本の排ガス処理装置市場では多数の企業が参入 

2023年の日本の排ガス処理装置市場は241億600万円で、世界シェアの16.2%を占めた。このうち大手3社の占めるシェアは44%で、7地域の中で最も占有率が低い。日本国内には、排ガス処理装置メーカがその他に荏原製作所、産業ガスメーカである太陽日産やエア・ウォーター子会社のエア・ウォーター・メカトロニクスなどが存在しシェアが寡占化していない。 

・米国は寡占が進むも韓Samsungに付随して参入するプレイヤーも

2023年の米国の排ガス処理装置市場は156億7,300万円で、世界シェアの10.5%を占めた。このうち大手3社のシェアが93%で、DASAtlas Copcoがほぼ独占している。一方、テキサス州オースティンに所在する韓Samsungの工場には韓国系企業からの納入実績がある。 

・韓国は特定メーカと結びつく企業が多数存在

2023年の韓国の排ガス処理装置市場は2691,700万円で、世界シェアの18.0%を占めた。このうち大手メーカのシェアは53%で、この他にAtlas Copco子会社のCSK他地場のメーカが多数存在する。UnisemSamsung向けの売上が全社売上の過半数を占めるなど、特定企業との結びつきが強い傾向にある。 

・台湾DASが過半数

2023年の台湾の排ガス処理装置市場は2833,600万円で、世界シェアの19.0%を占めた。このうち大手メーカのシェアは96%で、このうちDAS Environment Expert67%を占め、同社にとって最大のマーケットである。台湾の地場企業の他、日系や韓系の企業も一部のシェアを持っている。

・欧州2社が占有

2023年の欧州の排ガス処理装置市場は668,600万円で、世界シェアの4.5%を占めた。このうち大手メーカのシェアは96%で、米国同様欧系Atlas CopcoDASがほぼ独占している。市場が安定しており、この2社による独占状態は当面続くものと思われる。 

・中国は地場メーカが勃興

2023年の中国の排ガス処理装置市場は431700万円で、世界シェアの28.9%を占めた。このうち大手メーカのシェアは67%で、この他に中国国内メーカが15%ほどのシェアを獲得している。Beijing Jingyi Automation Equipment(北京京儀)とShanghai Shengjian Environment Technology(盛剣環境)が国産化を完了し、国策に沿って国内シェアを拡大している。

・その他アジアは大手3社が割拠

2023年のその他アジアの排ガス処理装置市場は443,600万円で、世界シェアの3.0%を占めた。このうち大手メーカのシェアは92%で、3社がシェアを分け合っている。ASEAN諸国、インドなどの状況によって、今後大きく成長する可能性のある市場である。


鈴木六実(グローバルネット株式会社リサーチャー)

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