Wolfspeed経営破綻へ 〜SiCパワーデバイスの主導権は中国企業に移りつつある〜
掲載日 2025/08/22
SiCパワーデバイスが自動車向けに本格採用され始めてから、約7年が経過した。当初は米国の自動車メーカー Teslaが2018年に発売した「Model3」に、STMicrolectronics製の650V SiC-MOSFETが採用された事に遡る。同年、「Model3」は約15万台を売上げ、EV(電気自動車)市場において首位に立つことになった。この「Model3」の成功に併せて、STMicroelectronicsもSiCパワー半導体市場において、パワー半導体市場で首位に立つ独Infineon Technologiesを抑えて、長年首位に立っている。
通常、Si-IGBTに代わってSiCパワーデバイスを搭載することで、1台あたりのコストは200〜300ドル上昇すると言われている。それでもTeslaがSiCの採用に踏み切ったのは、① 高信頼性: 絶縁破壊電界強度がSiの10倍高く、高電圧にも耐えられるため、高電圧を取り扱うEVに対してメリットがある。
② 熱伝導率が高い:放熱性が高く、デバイスの寿命を延ばすことにも繋がり、信頼性の向上につながる。
③高効率化:SiCは同じ電圧に耐えるために必要なチップの厚みをSiよりも薄くすることが可能となっている。また、Siよりも高温環境で動作することから、電力損失を抑制することが可能となっている。
④小面積化
SiCは低損失で温度上昇が少なく、高温環境でも動作することから、複雑な冷却システムを設ける必要が無く、冷却システムの簡素化・機器の小型化が期待される。
このようなメリットを持つSiCは、Teslaの採用を皮切りに、他の大手EVメーカーも積極的に採用するようになり、その間、2023年までSiCパワー半導体の市場及び、SiCウエーハの市場も急速に拡大するようになった。
EV市場における中国勢の台頭
このように、主要自動車メーカーがEV化を急速に推し進め、EV市場が拡大する中、EV市場で徐々に存在感を高めていったのが中国の自動車メーカーである。2023年に中国共産党の習近平国家主席が主宰した中国共産党指導部による政治局会議では、「新エネルギー車の開発優位性を固め、拡大する」ことを掲げており、EV産業において主導権を握る考えを示している。その方針を裏付けるように、中国政府は政府主導で公共充電インフラを整備しており、その規模は世界でも突出している。
この方針に合致するように、中国最大の自動車メーカーであるBYDは2022年3月にはガソリン車の生産を停止し、BEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド電気自動車)の生産・販売のみにシフトした。ガソリン車販売停止前である2021年のBYDの生産台数を見ると、BEVやPHEVといった新エネルギー車が60万7,119万台、ガソリン車が14万421台と、すでに新エネルギー車の販売数が圧倒的であったことがわかる。
続きをご覧いただくにはログインしていただく必要があります。
関連特集
関連カテゴリー
「Wolfspeed経営破綻へ 〜SiCパワーデバイスの主導権は中国企業に移りつつある〜」に関連する特集が存在しません。
「Wolfspeed経営破綻へ 〜SiCパワーデバイスの主導権は中国企業に移りつつある〜」に関連するカテゴリーが存在しません。