各製品分野で大型投資計画が相次ぐ/半導体材料企業の2021年7月~9月期業績

 半導体市場の成長に連動する形で、半導体製造で使用される材料の需要も拡大している。半導体の微細化、高性能化を実現するため、新材料の導入、材料品質の向上、材料を消費するプロセスステップの増加などが進んでおり、材料市場市場は半導体市場を上回るペースで成長している。
 このような市場状況から半導体材料関連企業の業績も好調が続いている。表に主要半導体材料企業14社の2021年7月~9月期(当該期間)の売上高および設備投資動向をまとめた。
 14社中12社が前年度比15%以上の高成長を記録している。一方、前四半期からはパッケージ基板企業を除けば、一桁台の成長に止まっている。急速な需要拡大により材料の生産能力が不足していることに加えて、コロナウィルスによる感染症の広がりにより、原材料供給不足、製造ラインの稼働停滞なども発生、材料メーカの供給能力が需要に追いついておらず、材料自体の市場成長も鈍化することになっている。
 この問題を解消するため、多くの材料企業が新工場建設、新ラインの増設などの大型投資を行っている。表中の企業における投資計画のうち、代表的な新工場計画をまとめる。

◎シリコンウェーハ 
 SUMCO:伊万里工場/ TECHXIV・大村工場、独Siltronic:シンガポール工場
◎フォトレジスト
 信越化学工業:台湾工場、JSR:四日市工場新棟、住友化学:韓国工場
◎パッケージ材料(基板、封止材)
 イビデン 大垣中央第2事業所/河間事業所、京セラ:鹿児島県川内工場、ベトナム工場(2工場)、新光電気工業:千曲工場、住友ベークライト:台湾工場

 このような大型投資により、多くの企業が2024,2025年には生産能力を 2020-2021年と比較して2~3倍に引き上げるという目標を示している。
 主要企業の動向をまとめていく。

1.シリコンウェーハ、化合物半導体

信越化学工業
 同社は電子材料部門において、Siウェーハを中心に、フォトレジスト、半導体封止樹脂材料、マスクブランクスなどの事業を展開している。
 電子材料事業の当該期間売上高は1,744億円で、前年度同期比17.0%増、前期比では8.3%増となった。2021年度上期(2021年4月~9月)の同事業売上高は前年度同期比14.7%増の3,335億円に拡大した。
 売上高は拡大を続けているが、シリコンウェーハ、EUV用フォトレジスト、マスクブランクなどはフル生産が続いており、前期比での成長ペースは一桁台に止まっている。ロジックメーカ向けのエピタキシャル・ウェーハ供給に関する契約が増加している。
 2021年度上期の設備投資額は前年度同期比2.1%減の417億円となった。シリコンウェーハに関しては、受注状況を見ながら適宜、能力増強を進めている。フォトレジストでは台湾新工場を完成させており、さらに2022年完成を目指して直江津工場の増強を進めている。マスクブランクスでも武生工場に新棟を建設している。

SUMCO
 同社の当該期間の売上高は前年度同期比24.1%増の716億800万円、2021年1月~9月の累積売上高は前年度同期間比11.8%増の2,444億6,300万円となった。シリコンウェーハ需要は300mm、200mmともに好調で、需給逼迫状態が続いている。このため、2021年12月期第4四半期売上高は前期比2.0%増の885億円、通期では前年度比14.3%増の3,329億円を予想している。
 設備投資額は2021年12月期第3四半期までの累計額は前年度同期間比15.4%増の487億円となった。2021年9月30日には、佐賀県伊万里市の九州事業所に新工場を建設、子会社であるSUMCO TECHXIV(長崎県大村市)でも建屋を増築することを発表した。両施設とも2022年に着工、2023年には設備導入、生産を開始する計画である。設備投資額は九州事業所の新工場については、建屋・ユーティリティ設備786億円、ウェーハ製造設備に1,229億円、合計2,015億円を予定している。SUMCO TECHXIVの増築分に関しては、建屋・ユーティリティ設備165億円、ウェーハ製造設備に107億円、合計272億円とする予定である。SUMCO TECHXIV向けは2023年内に、九州事業所の新工場は2024年に投資を完了する計画である。

Siltronic
 独Siltronicの同期売上高は3億7,160万ユーロで、前年度同期比24.2%増、前期比8.9%増となった。第1、第2四半期とも予想を上回る売上高を記録しており、2021年1月~9月までの累積売上高は前年同期間比11.5%増の10億2,880万ユーロとなっている。2021年度下期売上高は前期を上回ると見込んでいる。2021年度通期では、前年度比15%増を予想している。
 当該期間の設備投資額は前期比0.6%増の5,110万ユーロとなった。2021年1月~9月までの累積投資額は前年度同期間比9.4%減の1億4,850万ユーロに抑制している。同期間の投資の中心はFreiberg工場のエピタキシャル層形成能力の強化。さらに同工場のウェーハ引き上げスペースの拡張も進める。2021年第4四半期には投資額を2億5,000万ユーロ以上に引き上げ、通期では4億ユーロとする計画である。設備投資のほか、シンガポールで新300mmウェーハ製造工場の建設用地の長期リース契約を結んでいる。この新工場については、2021年第4四半期にも着工を予定している。

GlobalWafers
 シリコンウェーハの引き上げ加工は日本のグローバルウェーハズ・ジャパン(旧コバレント・マテリアルズのシリコンウェーハ部門)および中国の昆山中辰シリコン(ウェーハ径200mm以下)で行っている。
 当該期間(2021年第3四半期)の売上高は154億9,600万台湾ドル(NTドル)で、前年度同期比10.7%増、 四半期に入って成長ペースは鈍化して おり前期比は1.9%増となった。2021年1月~9月の累積売上高は前年度同期間比10.8%増の453億7,700万NTドルとなった。
 2021年上期(2021年1-6月)の設備投資額は23億6,730万ユーロで、前年度同期比56.6%減に抑制されている。
 同社は独Siltronicの買収を発表しており、中国における独占禁止法に関する認可が得られれば、2021年中にも手続きを完了する見通しである。

Wolfspeed(旧Cree)
 同社はSiC、GaNのウェーハとデバイスを提供している。当該期間の売上高は1億5,660万米ドルで、前年度同期比35.6%増、前期比7.4%増となった。車載用デバイス、パワーデバイスの分野で、デバイス、ウェーハともに大きな伸びを記録している。
 設備投資額は前年度同期比で約2.3倍増(128.8%増)の1億4,580万米ドルに拡大している。2020年度第4四半期(2020年4~6月)に着工したニューヨーク州 MohawkValleyの200mmウェーハ対応デバイス新工場への投資を続けており、2022年6月期中の稼働開始を予定している。同工場の稼働立ち上げ、試作までに約8,000万米ドルを投資する計画である。Durham本社工場で、材料、エピタキシャル加工の能力を増強するため、設備拡張を行っている。

2.フォトレジスト

東京応化工業
 同社の当該期間売上高は357億1,800万円で、前年度同期間比23.7%増、前四半期比7.1%増となった。事業分野別では、フォトレジストなどを含むエレクトロニクス機能材料の売上高は前年度同期比21.3%増の197億9,900万円、現像液、高密度実装材料などを含む高純度化学薬品の売上高は同22.9%増の150億9,600万円となった。アジアを中心にフォトレジスト、現像液などのレジスト関連材料、高密度実装材料などが好調に推移した。
 2021年1月~9月の累積売上高は前年度同期間比16.8%増の1,005億2,600万円となった。エレクトロニクス機能材料が同18.5%増の573億6,800万円、高純度化学薬品が同14.6%増の413億4,900万円となった。
 設備投資額は2021年上期(2021年1月~6月)で、前年度同期比91.5%増の50億9,800万円となった。相模事業所の新研究開発施設、韓国子会社におけるフォトレジスト生産能力増強に向けての投資が行われた。

JSR
 フォトレスジスト、絶縁膜材料などの半導体材料事業の当該期間売上高は268億円で、前年同期比17.0%増、前期比2.7%増となった。上期売上高は前年度同期比13%増の528億円となった。EUVレジストは上期で前年度比2倍以上の売上となっており、下期も好調を維持すると期待している。下期からは5nmに加えて3nm向けの需要が立ち上がることから、前年度比で倍近い成長を見込んでいる。なお、2021年度第2四半期にはメタルレジストメーカである米Inpria社の買収を完了している。
 2021年度上期の全社設備投資額は260億円で、ほぼ前年度並みとなっている。半導体関連ではフォトレジストの生産拠点である四日市工場の新棟建設向けが中心となっている。新棟は2021年8月上旬に着工しており、2022年中の完成を予定している。

住友化学
 フォトレジストなどの半導体材料事業は情報電子化学部門に含まれている。情報電子化学部門の当該期間売上高は1,184億円で、前年度同期比8.2%増、前期比8.3%増となった。2021年度上期売上高は前年度同期比6.8%増の2,122億円となった。フォトレジスト、半導体用高純度化学薬品は前年度から引き続き好調に売上を伸ばしている。
 情報電子化学部門の2021年度上期設備投資額は94億円となった。
 フォトレジスト、半導体用高純度薬品の生産能力の強化計画を2021年度第2四半期に発表した。フォトレジストについては、大阪工場に液浸ArF用、EUV用の生産ラインを増強する。さらに韓国子会社の東友ファインケムに製造工場を新設する。大阪工場は2023年度上期、東友ファインケムは24年度上期の稼働開始を予定している。設備投資額は韓国工場に百数十億円、2拠点合わせて数百億円となる見込み。
 この増強により、対象製品の生産能力を、2024年度には2019年度比で約2.5倍とし、フォトレジストの売上高を2025年度には2021年度の1.5倍に、2030年度には2倍にまで高める計画である。
 また日本と韓国で半導体用高純度薬液の製造ラインも増設する計画も発表している。愛媛工場で高純度硫酸の生産能力を約2倍に引き上げる。東友ファインケムの益山工場でも半導体ウェーハ洗浄用高純度アンモニア水の生産能力を約4割増強する。愛媛工場は2024年度上期を、東友ファインケムは2023年度下期の稼働開始を計画している。

富士フィルム
 フォトレジスト、CMPスラリ―などを含む電子材料事業はマテリアル部門に含まれており、子会社である富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズが事業を担当している。電子材料事業の当該期間(2021年度第2四半期)売上高は356億円で、前年度同期比22.3%増、前期比5.6%増となった。2021年度上期売上高は前年度同期比19.3%増の693億円となった。フォトレジストに加えて、CMPスラリー、ポストCMPクリーナー、ポリイミド樹脂など幅広い製品分野で売上を伸ばした。
 マテリアル部門の設備投資額は2021年度上期で119億円で、その多くが電子材料の増強に向けられている。
 同社では2024年3月期までの3年間で半導体材料事業に研究開発費も含めて700億円を投資する中期計画を発表している。投資の中心はEUVレジスト。まず、45億円を投じて静岡工場に開発、評価設備を導入、2021年年内にもEUVレジストの量産を開始する計画である。
  CMPスラリー、高純度薬液などについては2019~2021年の中期計画のなかで、約100億円を投資して、米国での増強する計画を発表しており、2021年度も同計画が実施されている。対象となるのはアリゾナ州とロードアイランド州の2工場。アリゾナ州の工場では、CMPスラリーや高純度溶剤の開発強化に向け、新棟を建設した。ロードアイランド州の工場には微細化に対応できるパターニングプロセスである、ネガティブトーンイメージング用現像液の生産設備を増強している。

3.パッケージ材料

イビデン
 ICパッケージ基板は電子事業に含まれている。電子事業の当該期間売上高は628億6,600万円で、前年度同期比89.8%増、前期比でも20.0%増となった。5Gインフラや高機能サーバ向けに最先端ICパッケージ基板の需要が好調で、売上を牽引している。2021年度上期(2021年4月~9月)売上高は同55.6%増の1,152億7,300万円となった。
 ICパッケージ基板の生産増強のため、大型の設備投資を行っている。2021年度の全社設備投資は900億円を計画しており、その90%程度が電子事業向けとなっている。
 ICパッケージ基板に関しては、2018年以降積極投資を行っている。2018年11月には第1期(2019年度~2021年度)として約700億円の投資を決定、大垣中央事業場第2棟の建設、大垣事業所の設備増強を進めた。2020年11月には第2期(2020~2022年度)として約600億円を投じて大垣中央事業所第2棟の立ち上げ、増産を進めている。同第2棟は2020年度末から稼働を開始し、2021年度から量産を開始している。
 2021年4月には大垣市の河間事業所を先端ICパッケージ基板の製造拠点とするため、建て替える計画を発表している。投資計画額は1,800億円。2021年度上期から既存建物の解体をはじめ、2021年度下期中には新設備に着工を予定している。2023年度には竣工、量産稼働を開始する計画である。
 さらに2021年9月には岐阜県揖斐郡大野町に工場用地、約150,000㎡を取得している。

京セラ
 セラミックパッケージや有機パッケージ基板を中心とする半導体関連部品の当該期間売上高は前年度同期比22.0%増の810億1,500万円となった。2021年度上期(2021年4月~9月)売上高は前年度同期比23.0%増の1,507億3,900万円となった。5Gや自動車関連市場向けセラミックパッケージおよび有機パッケージ基板の需要増加により売上高を伸ばした。
 設備投資額は2021年度上期に全社で前年度同期比18.0%増の673億6,700万円となった。
 IC用セラミック・パッケージや有機パッケージ基板、半導体製造装置用部品の半導体関連材料事業の強化向けて、3年間で1,000億円を投資する計画を明らかにしている。対象となるのは半導体製造装置部品の製造を行う鹿児島国分工場(鹿児島県霧島市)、ICパッケージ関連部品を製造する鹿児島川内工場(鹿児島県薩摩川内市)、ベトナム工場。
 有機パッケージとセラミックパッケージを増産する川内工場は、従業員駐車場のスペースに新棟を建設する。ベトナム工場では中国、東南アジアなど向けのセラミックパッケージを増産する予定で、既存2棟内の未使用スペースを使って新ラインを増設、2022年夏に稼働させる予定。さらに、2023年度中の稼働をめどに新棟を建設する。

新光電気工業
 同社ではIC用リードフレーム、ICパッケージ基板、およびIC組立事業、静電チャックなどの事業を行っている。当該期間(2021年度第2四半期)の売上高は678億5,600円で、前年度同期比61.4%増、前期比16.9%増となった。2021年度上期業績は前年度同期比49.1%増の1,259億2,200万円となった。
 2021年度上期の製品分野別売上高は、IC組立を含むICパッケージ分野が845億5,900万円、ICリードフレーム分野が225億7,000万円、静電チャックを含む気密部品が187億7,200万円となった。
 2021年度上期(2021年4月~9月)の設備投資額は前年度同期比3.6倍増の371億9,900万円に拡大している。需要が拡大しているICパッケージの生産能力増強のため、投資額を大幅に拡大した。更北工場、若穂工場、高丘工場のフリップチップ(FC)パッケージ増強が主な投資先となっている。
 2022年度以降も積極拡大を計画している。2021年10月にはFCパッケージ、セラミック静電チャックの生産能力増強のため、2025年までに1,500億円超の設備投資を行う計画を発表した。
 FCパッケージでは、2022~2025年度に1,400億円を投じて、新工場建設と稼働中の工場(更北工場、若穂工場)の生産能力を増強する。今回の設備投資により、FCパッケージの生産能力は現行比50%程度の拡大になると見込まれる。
 新工場は 同社4番目のFCパッケージ生産工場として、長野県千曲市に建設される。2022~2023年度で建設工事を行い、2024年度以降順次稼働していく計画である。なお、高丘工場ではすでに2018年度からFCパッケージの能力増強を進めている。更北工場、若穂工場の増強分は2023年度から稼働を開始する計画である。
 静電チャックについては、2021~2023年度に180億円を投じて、高丘工場に新棟を建設する。

4.その他

昭和電工
 昭和電工の半導体関連材料事業としては、昭和電工本体のエレクトロニクス事業部門で、オプトデバイス向けを中心とした化合物半導体材料、SiCエピタキシャルウェーハなど、昭和電工マテリアルズでは半導体関連材料としてCMPスラリー、絶縁膜材料、ダイボンディング用フィルム/ペースト、樹脂封止材などの事業を行っている。
 本体エレクトロニクス事業では、化合物半導体が輸出数量増により増収、SiC エピタキシャルウェ-ハ事業は、需要拡大に加え、パワー半導体デバイスメーカー複数社との長期供給契約の開始に伴い販売数量が増加した。昭和電工マテリアルズも各分野で売上を伸ばした。
 当該期間(2021年12月期第3四半期)のエレクトロニクス事業+昭和電工マテリアルズ(全社)の合計売上高は1,953億円、前年度同期比61.4%増、前期比16.9%増となった。エレクトロニクス事業の同期売上高は同40.7%増の339億円、昭和電工マテリアルズの売上高は同15.6%増の1,614億円となった。
 同社の2021年設備投資額は2020年度末時点でエレクトロニクス事業が157億円、昭和電工マテリアルズが524億円、合計で 681億円が計画されている。

住友ベークライト
 同社半導体関連材料事業の当該期間売上高は190億5,300万円で、前年度同期比42.8%増、前期比7.4%増となった。主力製品である半導体封止用エポキシ樹脂成形材料および半導体用ダイボンディングペーストは、大幅な売上増となった。感光性ウェーハコート用液状樹脂は、メモリ向けに売上を伸ばした。半導体パッケージ基板材料は、5Gスマートフォン用部品向けで成長した。
 同事業の2021年度上期売上高は前年度比40.7%増の365億3,000万円となった。
 全社設備投資額は2021年度で39億3,800万円を計画している。半導体封止用エポキシ樹脂成形材料事業では、海外の各拠点で新たに生産ラインの導入を計画しており、2022年から中国と欧州で、2023年から台湾で順次生産を開始する予定。

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