半導体企業の積極投資続く:2021年の半導体設備投資額は前年比30%増

1.世界の半導体設備投資、2021年に急拡大

 世界半導体市場は2020年後半から急速に回復、2021年については当社では前年比17.8%増の4,571億8,900万米ドルと予測している。しかし、この成長に対応するための半導体生産が台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC)社に代表される特定ファンドリ企業に集中したことにより、生産能力が逼迫することになった。さらに米中間の経済紛争、洪水、大雪といった異常気象による半導体工場の操業停止、世界的な重要工場での事故などの影響もあって、世界的な半導体不足が生じ、様々な産業分野に影響を及ぼすようになっている。半導体の供給能力逼迫に対応するため、2020年後半から半導体メーカが積極的に設備投資を行なっている。
 本稿では、2020年、2021年の半導体設備投資、工場計画の動向を、当社の最新レポート「世界半導体工場年鑑2021」(2021年7月30日発行)の内容をもとにまとめていく。
 半導体メーカー75社のデータを基に推定した世界の半導体設備投資額は、2020年が前年度比4.0%増の1,027億6,800万米ドルとなった。2019年は同0.4%増に止まっており、2020年との2年間での生産能力拡大は進んでおらず、前述の供給能力不測の原因にもなった。
 生産能力不足に対応するため半導体各社は積極投資を予定しており、2021年の半導体設備投資は大きく拡大するものとみられる。同年の設備投資額は前年度比30.4%増の1,339億6,900万米ドルと予測した。
 企業の国籍でみた2021年の地域別設備投資額予想では、韓国が415億3,100万米ドル(前年比13.1%増)で最大となる見通しである。2番目の投資規模は台湾の344億1,000万米ドル。ファンドリ企業が積極投資を行っており、前年からの成長率は全地域中最高の77.4%増となると予想される。
 米国の投資額は前年比29.8%増の332億9,000万米ドルと見込まれる。
 中国の投資額は2020年には100億米ドルを上回っていたが、2021年には97億5,000万米ドルに低下する。これは米国の対中輸出規制の影響により生産増強に必要となる装置などの調達面が不透明になっているためである。
 日本、欧州では車載用半導体、パワーデバイスの増産に向けての投資が進められいてる。日本で前年比41.%増、欧州で同55.5%増の拡大が予想される。

2.大手半導体メーカの設備投資動向
1)2020年の投資実績

 2020年度の半導体設備投資額ランキングの上位3社は、韓国Samsung Electronics 社、台湾Taiwan Semiconductor Manufacturing(TSMC)社、米Intel社の半導体メーカー大手3社。この3社の投資額が投資額全体の約57.8%と過半を占めている。
 2016年からの5年間をみると、Samsungがトップを維持しているが、2位については、2020年にTSMCがIntelを抜いて2位となっている。

 Samsungは2020年に、対前年比約43.7%増の約279億7,300万米ドルと巨額の投資を行った。華城(Hwaseong)工場に微細化投資を行い、Line S3、Line V1で5nmプロセスの量産を開始した。また、平澤(Pyeongtaek)工場ではLine P1の増強およびP2の第1期分の増強と第2期分の建設を進めた。さらにEUV専用工場棟Line V2も建設を開始した。
 TSMCも同15.4%増の約172億800万米ドルと積極的な投資を行った。台南では5nmプロセス対応のFab18第3期(P3 Line)の稼働を開始した。さらにP3 Lineの隣接地に3nm対応工場(P4 Line)を建設、2020年12月には建屋を完成させた。2021年に設備導入を進め、2022年からの本格量産を目指す。また、2020年11月には米国アリゾナ州での工場建設計画を発表、用地を取得した。
 積極投資を行なったSamsung、TSMCに対して、Intelは前年比12.1%減と投資を抑制した。この結果、2020年の投資規模でTSMCを下回った。おもに10nmプロセスを行うオレゴン州のD1D/D1X、イスラエル・カリヤットFab28の増強、さらにアリゾナ州のFab42への設備導入に投資が振り向けられた。また、組立工場であるベトナム工場にも4億米ドルを上回る投資を行っている。しかし、Fab42向け投資が年前半で終わり、NAND型フラッシュメモリ事業の売却に伴い、同事業向け投資が無くなったことなどの影響から、投資額は前年を下回った。
 上位3社以外では、メモリメーカである韓国SK-Hynix社、米Micron Technology社、日本のキオクシア、NAND型フラッシュメモリを製造する中国YMTC(Yangtze Memory Technologies:長江存儲科技)社といったメモリメーカは、年前半のメモリ市況停滞に対応して、投資を抑制、前年度を下回るレベルとなった。ソニーも携帯電話向けイメージセンサの売り上げ低下に対応、設備投資を削減している。
 これに対して欧州(スイス)のSTMicroelectronics社は、既存ラインの生産能力増強に加えて、SiCやGaNなど次世代パワーデバイスへの投資を拡大、前年を上回る投資規模となった。

2)2021年の投資計画

 前述のように2021年の設備投資は大きく拡大するものとみられ、各半導体企業も積極投資を計画している。前年は投資を抑制していたメモリ企業も投資規模の拡大を計画している。
 Samsungは2020年度に引き続き大型投資を予定しており、同年の設備投資額は300億米ドルを突破、前年比10.8%増の約309億8,000万米ドルにまで拡大する計画である。平澤工場でP2の第2期分の建設、EUV棟であるV2棟立上げ、さらに新棟となるP3に着工する計画である。
 P3は2023年の本格稼働を計画しており、EUVリソグラフィを利用したDRAM、第7世代のV-NAND型フラッシュメモリの生産を行う予定である(V-NANDは3D-NAND型フラッシュメモリのSamsungでの名称)。
 同社はさらに米国に新工場建設を計画している。 新工場はファンドリ工場とする予定。 新工場の候補地は、テキサス州オースティン、ニューヨーク州、アリゾナ州内の2か所の4か所。 2021年中に着工の可能性もある。
 TSMCの2021年の投資額は前年比74%増の300億米ドルで、Samsungに匹敵する規模となる見通しである。台南のFab18のP4 Lineへの装置導入、P3 Lineの増強を行う。新竹サイエンスパークでは、2021年完成予定で3nmプロセス対応の研究施設R1を建設しているが、その隣接地に2nmプロセスによる量産工場の建設を計画している。すでに用地は取得しており、2021年にも着工予定である。
 さらに2020年11月には米アリゾナ州に新工場を建設することを発表している。新工場は、5nmプロセスで製造を行い、月産2万枚(@300mmウェーハ)の生産能力を有する。2021年から建設開始し、2024年の稼働を目指す。
 投資ランキング3位のIntelは前年比36.8%増の195億米ドルを計画している。アリゾナ州Ocotillo工場敷地に約200億米ドルを投資して、2つの新工場を建設すると発表した。ファンドリ事業を含めた製造を担うべく、7nm 以降の最先端プロセスを用いる予定で、2021年に着工、2024年以降の稼働開始を計画している。さらに2021年5月には、35億米ドルを投資して、米ニューメキシコ州・Rio Ranchoにパッケージング工場を建設する計画も発表、同工場向けの投資も開始する
 ランキング4位以下の企業では、メモリメーカが投資を加速している。
 韓国メーカではSK-Hynixも100億米ドル以上(103億6,000万米ドル)の大型投資を計画している。韓国・利川(Icheon)で新工場M16を2021年2月に竣工、以降も装置導入を継続、生産能力増強を進める。2021年下半期よりEUVリソグラフィシステムを利用して1αnmプロセスでのDRAM の量産を2021年後半にも開始する計画。
 Micron Technologyも2021年には前年比10.3%増の90億米ドルの投資を計画している。台湾・台中のA3棟、広島工場のF2棟新設に向けられている。
 YMTCは前年度並みの16億米ドルに止まる見通しとなっている。
 キオクシアは前年比16.7%増の32億7,100万米ドルで、2019年水準への回復を計画している。北上工場のK1の増強、K2の用地整備、四日市工場のY7棟の建屋建設に投資の中心となる。
 ファンドリメーカとして2021年に上位10社に入ると予想されているのが台湾United Microelectronics(UMC)社。2021年の設備投資額は前年度から約2.6倍の23億米ドルを計画している。同年には、台南のFab12Aの第5期ライン(P5)の拡張(月産1万枚)に加えて、第6期ライン(P6)の新設に。P6は2023年第2四半期からの生産開始を予定している。総投資額は1,000億台湾ドルを計画している。
 同じファンドリ企業でも中国Semiconductor Manufacturing International(SMIC)社の2021年度設備投資額は前年比25.0%減の43億米ドルを見込んでいる。
 米商務省が2020年12月、同社を「エンティティー・リスト」に同社を追加したことにより、10nm以下の最先端プロセス対応装置、技術の同社への輸出が禁じられた。これにより装置調達に支障が出る可能性があるため、設備投資について慎重な姿勢を見せている。
 ソニーは前年比57.1%増の28億5,000万米ドルという積極投資を計画している。長崎テクノロジーセンター(TEC)・Fab5の増強を中心に投資を行う。なお同社では2021~23年度を対象とした第4次中期経営計画で、イメージセンサを中心とする半導体事業に約7,000億円の設備投資を行うと発表している。

 本稿のベースとなった「世界半導体工場年鑑2021」は世界の半導体メーカーの生産体制、工場・ラインの状況を網羅。各工場の生産規模、対応製品、対応スペックをわかりやすく表(表を参照)に示している。書籍のほか、CD版、PDF版の提供も行っている。

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