半導体製造における真空工学入門(前編)

掲載日 2025/06/16

真空とは

 “真空”と言っても その定義は、学術分野によって異なる。

 古典物理学で“真空”とは、いかなる粒子も存在しない仮想的な空間と定義され、量子力学においては、量子ゆらぎによって粒子と反粒子が極めて短い時間スケール*で生成・消滅を繰り返す、“真空のエネルギー”に満ちた理論的な空間となる。

 一方で、工学的な真空は、技術的な目的に応じて大気圧より低い圧力状態を指し、一定の分子密度を持つ空間であり、「低真空」「高真空」「超高真空」などに分類する。

 この特集では、工学的真空について前編、後編に分けて解説する。

工学的真空を用途別に分類すると、以下の通りである。

低真空: 10⁵Pa~10²Pa(用途例: 真空包装)

中真空: 10²Pa~10⁻¹Pa(用途例: 一般的な産業用途)

高真空: 10⁻¹Pa~10⁻⁵Pa(用途例: 半導体製造)

超高真空: 10⁻⁵Pa~10⁻⁸Pa(用途例: 電子顕微鏡)

極高真空: 10⁻⁸Pa以下(例: 宇宙空間)

 真空の圧力単位は、通常ISO単位系の圧力単位である“Pa”を用いるが、古い文献などでは、「Torricelliの真空」で有名なイタリアの物理学者Evangelista Torricelliに由来する “Torr”(1Toor=133.32Pa)で表記されていることがある。因みに1Torr=1mm水銀柱圧である。

 言うまでもなく気体の圧力は、気体分子の衝突によって生まれる力であり、気体の状態方程式から圧力pは

p = ν・R・T/V  (ν:気体のモル数すなわち分子数、R:気体常数、T:気体の絶対温度、V:体積)

で表され、真空では衝突する分子数が少なくなる為、圧力が小さいことになる。

 真空工学とは、気圧が通常の大気圧よりも低い環境、すなわち工学的真空における物理現象や関連技術の応用を扱う工学分野であり、以下のような分野がある。

気体分子の拡散と輸送

個体・液体表面との相互作用

プラズマ応用

宇宙工学

真空機器(ポンプ、計測機器)

真空応用技術(半導体製造、食品・医薬品製造 等)

 何故、半導体製造プロセスで真空が使われる?

 それでは、何故半導体プロセス等で真空が用いられるのか? その大きな理由として、真空では気体分子の“平均自由行程”が長いことが挙げられる。

 平均自由行程とは、ある分子が他の分子と衝突するまでに運動する平均距離(図1 参照)で、半導体加工プロセスで頻繁に使われるプラズマを安定して維持する為には、他の分子との相互作用間隔を長く、即ち平均自由工程を長くする必要がある。

平均自由工程λは、

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