SSDM 2024から見える、半導体の今後の技術トレンド

掲載日 2024/09/30

台風10号による大雨の影響で東海道新幹線が運休する中、9/1(日)のショートコースをかわきりに 9/4(水)までの4日間、SSDM 2024International Conferences on the Solid State Devices and Materials)が 姫路市文化コンベンションセンター「アクリエひめじ」を会場に開催された。

組織委員会からの発表では、採択論文数577件、参加登録者は会場・オンライン合せて約950人だった。

初日のショートコースは、2つのセッションに分かれ、ショートコース-1のテーマは「極低温超伝導体を用いた古典量子コンピューティングへ向けて」、ここでは、量子コンピューティング技術の最新動向とともに、シリコン半導体技術、デバイスとどのように関わるかが論じられた。その内容は、量子コンピューティングの発展は、先進半導体技術による量子技術の開発から始まり、従来のコンピュータでは難しい問題を解決する新しい道が開かれ、量子コンピュータの導入は、情報処理にパラダイムシフトを引き起こしている。特に光量子コンピュータは更に高速かつ効率的な情報処理の可能性がある。さらに、スピンベースの量子コンピュータは量子ビットの安定性とスケーラビリティを向上させる技術で、より大規模な量子コンピュータの実現が期待され、実現にはシリコン半導体技術の統合が欠かせない。

また 量子コンピュータの量子ソフトウェア層から見たエラー訂正や回路圧縮の方向も論じられた。



図1. “Quantum”におけるムーアの法則~超電導量子プロセッサーの集積化~

(出典: 川畑 史郎教授(法政大学)による講演 “Introduction to quantum computer technology”の資料を基にGNCが作成)

もう一つのセッション ショートコース-2のテーマは、「0.5nmノード時代に向けた持続可能なCMOSスケーリング」、ここでは、CMOSロジック半導体のスケーリングがGAA(ゲートオールアラウンド)後の方向について様々な視点から述べられた。ロジック標準セルのスケーリングは、寸法のスケーリングと新アーキテクチャの導入でCMOS構造を3Dスタック(3次元積層)へと進化させる。TMD(遷移金属ダイカルコゲナイド)CMOSは将来の半導体デバイスとしてロードマップに挙がるが、p, nチャネルに異なるTMDを使用する必要があり、コンタクト部分の構造やドーピング、ALD(原子層堆積)によるGAA構造の作成に未だ課題が多く残る。

産総研「オープン・ソース・シリコン」は、オープンソースの設計ツールとPDK(プロセスデザインキット)を使用し、誰でも半導体チップを設計・製造できる取組みで、個人や小規模企業においてもカスタムASIC(特定用途向け集積回路)の作成を可能にし、設計の透明性や再利用性が向上する。Si-PIC(光集積回路)はデータセンターの光インターコネクトが期待されている。InPベースのレーザーダイオードや半導体光増幅器との統合で消費電力やコストが改善されることで光電融合での性能最適化が図られる。

また、量産製造の計測には情報の豊富さ、局所性、スループットが重要でるが、現在 完璧なソリューションは存在しない。検査技術は研究所から生産ラインへ移行し、光学、電子、X線技術の進展が求められている。極低温CMOS技術は量子コンピュータに適用が期待されるが、極低温でのI-V特性、バンド端エネルギー状態の理解、モデリングが鍵となる等が述べられた。

プレナリーセッションは、2日目の午前に約250人の聴講者を集め金指 壽氏(経財産業省)を始めとして 国内外の産官学から4人の講演者が登場した。金指氏は、半導体はデジタル化と脱炭素化に不可欠で、日本の産業競争力に大きく影響する戦略的製品で、世界的な需要増加への対応に日本政府は台TSMCとの合弁JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing), 米IBMの技術を基にしたラピダス等 大規模な投資プロジェクトを推進していくと語った。

Sanjay Natarajan氏(米インテル)は、ムーアの法則は計算能力を劇的に向上させ、生活を変革し、今日AI(人工知能)アプリケーションの増加が半導体の技術革新を後押しするとともに、製造コストの上昇も招いている。今後、Beyond MOSの登場に期待がかかるが、Beyond CMOSがどのようなものかは まだ良く分かっていないが、おそらく それはCMOSに置き替わるよりはCMOSを補強する役割を演ずる可能性が高いと指摘した。

東脇 正高教授(大阪公立大学)は、酸化ガリウム(Ga2O3)は、優れた物理特性を持ち、単結晶バルクを溶融成長法で合成できるため低コストで大量生産が可能で、2012年以降 製造技術が大幅に進歩した結果、SiCやGaNに次ぐ重要な半導体として認識されている。Ga2O3は耐高温、耐粒子線性能に優れ 宇宙等の過酷な環境でのエレクトロニクスデバイス材料として期待されている事を述べた。

最後にDaniel Ng氏(米AMD)が登場した。チップレットパッケージングはAIとHPC(高性能コンピュータ)の基盤技術であり、先進的パッケージングアーキテクチャの採用とその性能向上が今後も欠かせない。米AMDはチップレットを実現する上で、モジュール化設計、高密度インターコネクト、熱マネージメント等技術開発で業界をリードし続けると語った。

これに続き9/4(水)の最終日まで、招待講演を含み採択論文の口頭講演、ポスター発表が12会場に分かれ繰り広げられた。一般口頭講演、ポスター発表のカテゴリーは 「Advanced CMOS」を始めとするエレクトロニクス、オプテックスに関連する12分野である。


 写真1. 9月2日の “Advanced CMOS: Process Technology“ セッションにおけるimec/Steven Demuynck氏の講演
(筆者が撮影)

今回のSSDM2024の講演から 今後の半導体のロードマップを下記のように予測した。
1) 米Intelは、GAAを使用してロジック半導体の量産に向けプロセス開発を進めている。韓Samsungは、3nmノードから“MBCFET(Multi-Bridge-Channel FET)”を使用すると発表しているが、量産レベルに達していない。台TSMCは2025年からN3X(N3アドバンス)またはN2クラスの製品でMBCFETを使用するとみられる。米Intelは、Intel 20Aないし18AにMBCFETを導入予定で、Lunar Lake(ノートPC向け)、Clearwater Forest(第2世代Xeonプロセッサ)に使用される。

2) これと同時に注目されているのがBSPDN(Back Side Power Delivery Network)であるが、デバイス構造の この様な大きな大変革を同時に行うのはリスクが大きいが、インテルはBSPDNとCFETの製品適用でCMOSスケーリングでの遅れを一気に回復させる計画を発表しており、成り行きが注目される。

3) 2032年頃にはCFET(GAAのpMOS, nMOSを上下に重ねる)が実用化される。CMOSトランジスターの3次元化は更に一段高いステップへと進むことになるが、現状ではp, nMOSの重ね合わせ方法も定まっておらず、技術的ハードルは一段高いと予想される。

4) その後にTMDCMOSが登場すると予測されている。台TSMC等は基礎的な研究結果は発表しているが、実用化時期に関しては、どこの企業、研究機関も明言していない。

5) DRAMではAI半導体に使用されるHBM(広帯域メモリ)4(現在のHBM3の1.4倍帯域幅)は2025年に量産開始される。NANDフラッシュメモリでは、キオクシアが2027年に1,000層の3次元NANDフラッシュメモリを市場投入すると発表した。PLC(5ビット/セル)の実用化時期はどのメーカーも発表していない。

6) 光電融合は、光導波路によるインターポーザーにより、チップレットを光接続することが当面の目標とされるが、その構造、材料、実用化時期は未だ混沌としている。

グローバルネット()マーケティング部 志田啓之

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