第84回 応用物理学会 秋季学術講演会の注目トピックス
掲載日 2023/11/14
2023年第84回応用物理学会秋季後援会(秋季応物)が9月19日から23日の5日間、半導体関連企業の新立地で活気づく、熊本県の熊本城ホールを中心会場として全4会場で約6,000人の参加者と約4,000件の講演・発表が行われた。
今回の一般公開シンポジウムでは、『再起する日本の先端ロジック半導体』のテーマで産官学の講演者により 現在の日本の半導体を取り巻く産業政策、産業界の状況が語られた。 冒頭は応用物理学会会長であり、東京大学教授の平本 俊郎 氏が、TSMCの誘致で活況を呈する“熊本”で開催する意義を強調し、この講演会を日本半導体復権の契機とし、今後の半導体開発において重要視される半導体アプリケーションも含めた議論の場として、応物学会の立ち位置を語った。
続いて経産省商務情報政策局の金指 壽 課長からは、現在の経産省では、2040年の日本半導体 eco system構築を目指し、これに深く関わる三階層が語られた。三階層のうち、Step1がJASM、Step2がRapidusとLSTC、Step3が光電融合と量子コンピューティングとして、現在施策を行っている事が述べられた。その他には、台 TSMC、独 Fraunhofer、ベルギーのimec、仏Letiといった海外の研究開発組織と、国内組織とのアライアンス、TSMCの日本における投資拡大、Intel、Samsungのパッケージング製造装置・材料開発拠点設置計画、パワー半導体メーカーの連携・再編が国内の半導体産業活性化の為には重要となり、強力にサポートしていく旨が語られた。
そして日本政府も強力な支援を行うRapidusについては、米Applied Materials、米IBM、imecから支援を得てロジック、メモリーセントリック・アーキテクチャーへ移行するタイミングで市場を獲得するという戦略が語られた。
続いて、開催地熊本に工場を建設するJASM (Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)の堀田 祐 社長が登壇し、同社は2024年末に、22/28nmおよび12/16nm FinFETの量産(出荷開始)を行う。JASMに対してTSMCは、製造装置・材料・間接材の現地調達を進めており、TSMCの台湾では、調達率は64%と高い割合を維持する。JASMも日本国内調達率を2026年の50%から2030年には60%に向上する計画で、使用電力は再生可能エネルギーを100%使用すると述べられた。
続いてRapidusの小池 淳義社長が登壇し、同社の目指す未来が語られた。「Rapidusのモットーは「DASH」D:Design重視、A:AI、S:Solution提供、H:Heterogeneousといった異種多様なChiplet製品と会社組織である。また生産ラインは、搬送も含め完全枚葉化を目指し、理論的に示されている現行のバッチ・枚葉ミックスのリードタイム60日/600ステップを完全枚葉化すれば30日で出来る事を実際に証明する。製品開発のコンセプトは、従来のDesign for Manufacturingでなく、Manufacturing for Designをもって、PPCAt(Power save、Performance、Cost、Area、time to market)で世界一を目指す。」と方向性を明示した。
テクニカルシンポジウム 『尖端(単に先端ではなく尖った先端の意)のサイバーフィジカルシステム:半導体モノづくりをAI・テクニカル・最適化計算で加速できるか?』では、は、AIや最適化計算を活用した Cyber-Physical Systemsが、半導体モノづくりを先鋭化し、グリーン化への道筋を示す可能性をテーマとして各者の講演が行われた。
九州大学の藤澤 克樹教授は、「サイバーフィジカルシステム実現のための数理・情報技術と産業応用」と題し、従来の製品開発フローでAIが利用される場合は、デザイン(設計)において LLM(大規模言語モデル)等AIが活用されスピードアップが図られるとした。(図1.参照)
その他、村田機械の長谷川 雅大 氏による「半導体ギガファブにおいて生産管理やマテリアル搬送における技術動向」、産業技術総合研究所の原 史朗氏による「半導体ミニマルファブは サイバーフィジカルシステム無しには成り立たず」の講演が行われた。
「最先端ロジックへの再挑戦」と題した講演では、IBM Researchの山下 典洪氏はFinFET のスケーリング限界を超える構造がNano Sheetであり、2nm 以降の CMOS デバイスの基本アーキテクチャーである旨が、次に産総研の林 喜宏氏は、産総研が主導する「半導体研究開発オープンプラットフォーム」の戦略的位置を成功に導く建付けの発表が、東京エレクトロンの山本 知成氏は、先端世代のロジック技術のキーであるEUVリソグラフィーとそこで使用されるEUVレジストの進化について、東北大学の小池 淳一教授は、先端ロジックデバイスにおいてCuに替わる配線材料として注目される、CuAl2等のIMC(金属間化合物)の密着性と濡れ性、耐エレクトロマイグレーションについて、Rapidusの折井 靖光氏は、「チップレットが半導体パッケージのみならず半導体全体を革新する。」とし、後工程の活性化に期待を寄せた。
また、環境問題が頻発する中、半導体産業も今後更なる対策を実施する必要性があることから「グリーン・サステナブル半導体製造技術の体系的構築」では、各社の環境に配慮した半導体製造への提言や取り組みが発表された。
エー・アイ・ティの加藤 凡典氏は「半導体製造のグリーンサステナブル検討」題し、DiPパッケージで見ると Siチップとパッケージ材料の体積比は、Siチップがわずか1%であることから、依然としてパッケージが半導体製造における環境負荷要因である事が指摘された。東北大学の松八重 一代氏は、「半導体製造のライフサイクル分析に向けて」と題し、半導体の環境対策にもLCA(Life Cycle Assessment)による評価の重要性が説明された。産総研の田原 聖隆氏は、LCA等に用いるデータは、産総研内のLCA活用推進コンソーシアムが開発した LCI(Life Cycle Inventory)のデータベースであるIDEA(Inventory Database for Environment Analysis)がふさわしいと説明した。NECの稲垣 孝一氏は Green×Digital コンソーシアムを設立し、サプライチェーン全体の CO₂排出量の見える化のための基盤づくりに対する説明が行われた。ロームの重信 好行氏はロームにおける環境負荷低減への取組みを、堀場エステックの南 雅和氏は半導体製造プロセスにおけるモニタリング技術を、産総研の森岡 敏博氏は高集積化半導体デバイス製造工程に使用される材料ガス供給量の制御に使われるマスフローコントロール技術と流量標準についての説明が行われた。部材機構の岩崎 悠真氏は データ駆動材料開発技術の説明と材料開発における4つのインフォマティクス『マテリアルズ・インフォマティクス』、『プロセス・インフォマティクス』、『計測インフォマティクス』、『物性(物理)インフォマティクス』の事例を交えた紹介が行われた。併せてデータ駆動型材料開発技術の一つである自律材料探索の解説があり、今後インフォマティクスを活用することで、研究開発に伴う環境負荷を削減し、製造のグリーン化に取り組むことが可能であると説明された。
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