日本の半導体業界の生き残りのカギは何か? ~日本の今を解く鍵、経済安全保障政策、半導体を取り巻く環境や社会的課題とは~
掲載日 2021/09/24
筆者:杉山和弘 (Kazuhiro Sugiyama)
英調査会社オムディア・コンサルティングディレクター
世界各国が果敢な半導体産業の強化策を打ち出すなか、ようやくにして日本政府も強化へ重い腰を上げ始めた。対米、対中、対欧の関係性を維持しつつ、サプライチェーンとビジネスのバランスをどう取っていくのかは難しいが、日本が「強化策 待ったなし」の状況にあることは数々のデータが示している。
半導体市場シェアを振り返ってみると、ここ10年で日本だけが著しくシェアを落としていることが分かる。2010年の国・地域別シェア(生産額ベース)は米国49%、日本19%、欧州(EMEA)9%だったが、20年は米国が51%、欧州が9%とシェアを維持・向上しているのに対し、日本は9%へ大きくシェアを下げている。
この間、大きな成長を遂げたのが中国だ。10年のシェアは1%に過ぎなかったが、20年には5%まで上昇した。この牽引役になったのが「ロジック半導体」。ロジック市場における中国のシェアは10年時点で1%しかなかったが、20年には11%に達した。これに対して日本は18%から3%へ大きくシェアを下げており、衰退が著しい。中国ロジックの成長はスマートフォン用アプリケーションプロセッサーがもたらしたもので、その成長率と設計力の強化は驚異的ですらある。
米国の規制で先端ロジックの国産化が難しくなったことに伴い、中国は今後、レガシーノードで量産できるパワー半導体をさらに強化してくることが間違いない。カーボンニュートラル実現に向けても、国産化のスピードを上げてくるのは確実だ。
パワー半導体を含むディスクリートのシェアに関して、中国は10年に3%に過ぎなかったが、20年には6%まで上昇した。一方で、日本は10年のシェアが36%だったが、20年には24%まで下落しており、ここでもシェアの低下が激しい。これに対してインフィニオンやSTマイクロらがいる欧州は23%から35%へシェアを高めており、いち早く300㎜化に取り組んできた成果が出ている。
つまるところ、日本だけが世界市場で極端にシェアを下げており、いま政策や戦略を立案し、多額の資金を投じてでも強化に向けて動き出さないと、シェアはさらに下がっていく。
世界では今後10年で、自動運転、5Gの普及などにより、半導体市場は100兆円規模にまで成長するとされる。しかし、「このままでは、日本だけ取り残され、日本の半導体産業のシェアは大きく落ち込み、ほぼゼロになってしまうとの懸念もある」(経産省報告書)としている。日本の半導体市場が2030年に現在と同等のシェア(10兆円)を維持するためには市場規模として5兆円の増加が必要だ。
足もとでは半導体不足が続いていることによってトヨタをはじめとして国内自動車メーカー各社は減産を余儀なくされている。この影響は来年まで続きそうだ。
そのような中、今年の6月に経産省は”半導体・デジタル産業戦略”書を公表した。今回の政府による目論見はこうした短期的な問題の対処ではなく、中長期を見据えた、まさに日本の産業の生き残りを賭けたビジョン作りとである一方、かつてないほどの危機感の現れなのだ。
日本には海外のファンドリや半導体メーカーが手を組みたくなるインセンティブがまだ残っている。まず、東京エレクトロン、アドバンテスト、スクーリンといった半導体製造装置メーカー。そして、信越化学、富士フィルムといった部素材メーカーだ。
装置で言えば、塗布(シリコンウエハーにフォトレジストとよばれる感光剤を塗布する)で約9割、CVD(化学蒸着)で3割、エッジング(表面加工)で3割、素材ではシリコンウエハー(半導体の基板になる)6割、レジスト(半導体の保護膜)7割、封止材(熱、埃などから半導体を保護)8割のシェアを持つ。いわばチョークポイントを握っており、これらを強みにして、ファンドリと手を組むことができる。
また、今後は微細化プロセスにも限界がくる。そこで注目さているのが、半導体チップの積層化だ。インテルは7月の製造技術に関する発表会「Intel Accelerated」で、3Dパッケージング技術を発表した。ここでも、日本のイビデン、新光電気工業といった企業の技術が欠かせないものとなっている。これらは「ムーアの法則」(微細化の限界)を乗り越えるという意味で「More than Moore」と呼ばれる動きだ。当然、TSMCも注目している技術であり、5月にTSMCがつくばに研究拠点「ジャパン3DIC研究開発センター」を設けたのは、その名の通り、この積層技術を磨くためだ。
この他、日本には半導体に使用される電子部品を製造する企業、アクチュエータ(動力源)となるモーターの製造企業も存在する。単品ではなくサプライチェーン全体の重要性が高まっているなかで、日本国内に半導体に関するこれだけのパッケージがあるということは大きな強みとなる。
そして何より重要なことは半導体メーカーが強くなることであり、そのためには、強いセットメーカーの存在が不可欠だ。事実、米国にはアップルがおり、半導体にはインテル、ファブレスにはクアルコムやブロードコムが揃っている。そうした強い企業との取引があるからこそ、日本には強い半導体製造装置メーカーや電子部品メーカーが残っているが、日本のセットメーカーがすでに以前の強さを失っている現状を考えれば、日本の半導体メーカーを強化する支援策や国家戦略が今まさに必要不可欠である。
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