ボンディング・キャピラリー

掲載日 2021/09/29

1.多様化するボンディングキャピラリーの技術動向

 ボンディング・キャピラリー(以下、キャピラリー)は、ワイヤボンディング装置(ワイヤボンダ)で使用されるツールで、ICチップの電極とリード端子をワイヤーで接続する際に使用される。キャピラリーはセラミックやルビーなどで作られており、内部に設けられた細い管を通じてボンディングワイヤ(金線、銅線、アルミ線など)がキャピラリの先端から繰り出される構造となっている。ボールボンディングにおいてはキャピラリから出てきたワイヤの先端部を加熱、ボール状にし、チップのボンディングパッドにキャピラリの先端で圧着する。その後、ワイヤをリードフレームやパッケージ基板の所定の端子まで引き伸ばし、端子に接続し、ワイヤを切断する。
 この一連の動きを高精度に実現するため、キャピラリには変形がなく、先端には圧着などによる傷がつきにくくて、消耗が少なく平滑な表面が求められている。このため、強度が高く、表面を滑らかにできる、セラミック、ルビーなどの材質が用いられている。セラミックスでは、純度99.99%のアルミナが広く使われていたが、現在は高強度で、平滑な表面が実現できるジルコニアを添加したアルミナの採用が増加している。
 また、現在、ボンディングワイヤについては金線のほか、低コストの銅線の採用が進んでおり、キャピラリーでも金線用、銅線用が製品化されている。デバイスの種類ごとにキャピラリーが提供されている。
 ワイヤ形状に関してもファインピッチ仕様や低ループ、ロングループなどが求められており、これらの要求に合わせたキャピラリーが提供されている。
 キャピラリーは一定回数の使用ごとに再生(洗浄)して使用されるが、再生回数、洗浄のしやすさも製品の差別化ポイントとなっている。

2.キャピラリー市場:2020年後半から回復が本格化

 2018年には半導体市場が大幅に拡大、キャピラリー市場も前年比7.5%増の115億4,000万円に拡大した。しかし、2019年には半導体市場の停滞により、大きな需要先であるアジア地域の後工程専業企業(OSAT)の売上高がダウン、キャピラリー市場は同16.9%減の95億9,000万円にまで低下した。
 2000年以降、半導体市況は回復したが、後工程市場、OSAT企業については回復が年後半以降にずれ込んだことから、キャピラリー市場は前年比7.1%増の102億6,600万円となったものと見込まれる。年後半から回復が加速していることから、2021年には同18.5%増、121億6,200万円にまで拡大することが予想される。
 ワイヤボンディング装置ボンダの台数増加に伴い、使用されるキャピラリーの個数も増加している。しかし、キャピラリが高品質化することで、再生回数の増加、長寿命化が進んでいるため、1台当たりで一定の処理量に対応するための使用個数は減少傾向にある。


 キャピラリー市場には多くの企業が参入している。企業の種類もボンディング装置メーカー、セラミックス、ガラスなどの素材企業、精密加工技術を活かした企業など多様である。また、売上規模は小さいが、2010年以降、韓国企業の参入が増加している。
 2020年では、ボンディング装置メーカである米Kulicke&Soffa(K&S)、セラミックス企業であるTOTOがトップを争っていると推定される。

3.参入企業の動向

 K&STOTOのほか、日本企業ではアダマンド並木精密宝石エーディーワイ(ADY)ハイソルなど、海外企業ではスイスのSPT(Small Precision Tool)Roth、韓国のPECOKOSMA(Korean Semiconductor Materials)Megtasなどが参入している。
 売上面では前述の2社に、アダマンド並木精密宝石SPT Rothなどが続いているものと推定される。
 K&Sはダイボンダ、ワイヤボンダ、ダイサなど組立装置の世界的な企業。キャピラリー、ダイシングブレードなどの組立装置向けの消耗品(Comshuamble)事業は、主要顧客であるOSATが多いアジア市場に迅速に対応するためシンガポールを拠点に展開している。キャピラリ―の売上高は全社売上高の10%弱と推定される。
 銅線、金線に対応した製品をハイエンド(多バッド、狭ピッチ)から低パッド数のローエンドチップまで、対象デバイス対応した多様なキャピラリを製品化している。さらに微細ピッチ、低ループ、ロングワイヤなどの精密加工に対応したArcusシリーズ、長寿命のVersaCap3など、先端用途向けや高生産性製品も開発している。
 TOTOは独自開発の長寿命素材PXを利用した製品により実績を伸ばしている。PXは高い強度を持ち、従来製品と比較して耐摩耗性が向上しており、キャピラリーの先端摩耗を抑制することが可能となっている。これによりキャピラリーの交換回数を減らすことができ、ボンディング接合強度、プロセスウインドウについて初期状態を長期にわたって維持できるようになっている。また、加工精度を高めることで15μm径ワイヤによる、パッドピッチ35μmを実現している。
 アダマンド並木精密宝石は、セラミックス製と単結晶ルビ―製のキャピラリーを提供している。セラミックス製品については、 ジルコニア添加アルミナを材料として 、同社の中核技術である光通信用フェルールの量産に使用している射出成形技術で製造している。これによりキャピラリー個体間の同軸度が良くなり、キャピラリー交換時の再調整作業時間を低減できるようなっている。
 また、高温(1,000℃以上)、等方高圧(1,000気圧以上)を加える事で材料粒子間に発生する気泡を除去し、材料密度を高めるHIP処理(Hot Isostatic Pressing:熱間等方圧加圧法)を採用、強度を高め、高い表面平滑化を実現している。
 ルビーキャピラリーは単結晶ルビーを利用している。単結晶ルビーは強度に加えて、高い表面平滑度が得られる。このため、ボディングワイヤを傷つけないスムーズなボンディングを可能にする。
 SPT Rothは、スイス本社のほか、シンガポール、フィリピン、中国(無錫)、米国(カリフォルニア)に生産工場を置いている。
 現在の主力製品は純度99.99%のアルミナを使用したセラミックキャピラリー。銅ワイヤ向け製品が中心となっている。さらにジルコニアを添加することで、製品寿命を従来のアルミナの2倍以上に延長した長寿命品(AZRシリーズ)も製品化している。
 ADYは、ジルコニア添加アルミナを素材として、CIM(セラミック射出成形・焼成)法で製造している。同法により、ユーザの指定する形状を製作、短納期での納入を実現している。また、生産も少量から対応できる。このような特長から、カスタム生産事業が中心となっている。
 ハイソルは自社開発のキャピラリを取り扱っている(製造は外部協力企業)。製品はジルコニア添加アルミナが90%以上を占めている。ユーザ要求に合わせたカスタム製品が事業の中心となっている。
 PECOは独自のセラミックス加工技術を利用して製品開発を行っている。KOSMAは、ジルコニア添加アルミナを素材とした銅ワイヤ向けキャピラリが中心。Megtasはカスタム製品が中心となっている。これらの韓国企業のキャピラリー売上高は2020年で数百万米ドルレベルに止まっているものと見られる。

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