材料技術関連講演が多数発表された 「第38回エレクトロニクス実装学会春季講演会」 

去る3月13日(水)~15日(金)にかけて、東京理科大学野田キャンパスにて「第38回 エレクトロニクス実装学会春季講演会」が開催された。 今回は、特別講演:2件、依頼講演:9件、一般講演:121件、チュートリアル講演:6件の他、スポンサー企業による「ものづくり」発表:6件、ポスター発表:9件と、共催のスマートプロセス学会エレクトロニクス生産科学部会 第20回 有機/無機接合研究委員会有機/無機接合研究委員会の講演:4件を含み、合計:157件の発表が行われた。

材料技術に関連する講演数が多く、次いで高速高周波・電磁特性・回路技術については、これらの回路設計から関連材料、計測や近年、生体関連が多い応用分野にわたる広い研究分野からの発表が件数の多さにつながっている。 この他、光回路実装技術の発表も多く、「光電融合」の実用化に向けての研究発表は多いが、社会実装の盛り上がりは、未だ見えてこないと感じられた。

また、今回の一般講演では、「宇宙」関連の発表が数件あった事が印象的であった。木村 真一 氏(東京理科大学 スペースシステム創造研究センター長)による特別講演 「宇宙居住を目指した地上・宇宙Dual開発の試み地上エレクトロニクス技術の宇宙応用への期待」は、近年、月や火星などへの進出・開発計画が発表され、このような宇宙進出を実現する広範かつ高度な技術開発を効果的に行うには、宇宙専用だけを開発するのではなく、地上で用いる技術との適切な連携が必要である。この観点から、地上-宇宙のDual開発を東京理科大のスペースシステム創造研究センターが行うとの発表であった。その他宇宙に関して、小池創士氏(東京電機大学) から「超小型衛星内のデータ通信における故障検知システムの開発」 のテーマで超小型衛星HATSATにおいて使用するデータ通信システムにおける問題の有無を通信データの誤りから検出しようとする故障診断システムに関する一般発表などもあり、 今後も「宇宙」技術に関する学術発表が増えると予想される。

もう一つの特別講演が「2nm時代を前にした半導体パッケージ技術」のテーマで、野中 敏央 氏(Rapidus株式会社)から行われた。生成AI学習向け等のハイエンド半導体パッケージには、ロジックとメモリの複数チップを1パッケージへ集積するヘテロジーニアスインテグレーションやチップレットなどの開発が進められており、その中でRapidusが目指す2nm世代以降のロジックデバイスにおいては、TSMC、Samsung、Intelなどが公表しているパッケージプラットフォームが紹介された。しかし、Rapidusのパッケージング・プラットフォームの発表はまだ無かった。

注目される発表として竹下俊弘氏(産総研) の「極薄ハプティックMEMSフィルムの開発」があった。 ハプティック(haptics)とは、人体に力、振動、動きなどを与える事で皮膚感覚フィードバックを得るテクノロジーで、フィルム型圧電振動素子をハプティックスに応用するため、柔軟性、耐久性を保ち人体へ違和感なく貼る実装技術研究、今後、仮想現実、ヘルスケアなどの応用分野が広がると予想される。

この他、青木正光氏(日本環境技術推進機構(JETPA)) の「実装業界に及ぼす環境規制動向」 では、 欧州員会によるRoHS規制から始まり、REACH規制、PBDE/DBDPE難燃剤規制、そして昨年2023年はPEFAS規制対象案が発表されエレクトロニクス業界も この話題で騒然となった。RoHS規制の際は200件以下であったパブリックコメントが、PEFAS規制案に対しては5,000件に及んでおり、本格的議論はこれからとの事である。  

栗田洋一郎教授(東京工業大学)からは「チップレット集積技術の最新動向」のテーマで 従来型のインターポーザーではない“Pillar-Suspended Bridge (PSB)”について発表された。 “PSB”は、Meta-IC: “Integrated circuit of integrated circuits”(IC chipsを集積回路で更に集積する)をコンセプトに、Suspended Bridge Architectureを用いるが、これは個々の要素技術は従来技術をベースとしており、いわゆる「破壊的技術」(“Distractive”)ではないという説明があった。


図1 Pillar-Suspended Bridge (PSB) (出典:チップレット集積プラットフォーム・コンソーシアム HP http://vcsel-www.pi.titech.ac.jp/chiplet/index-j.html より引用)

一方、パワー半導体分野では、 SiC、GaNなどWBG(Wide Band Gap)半導体が、GXの切り札として普及に期待が高まるなか、その性能を生かすためには高速スイッチングにともなうターンオフサージ、部分放電防止やEMC(電磁両立性)を考慮した回路技術が必要で、この回路の実装設計の為の解析技術を「パワー半導体基板内臓技術によるSiCベアダイ実装回路の研究」のテーマで 中村和人氏(名古屋大学・STROM Lab.)が発表。光分野において、 「新しいデータセンタ応用光インターコネクトの動向と展望」 を高井厚志氏(光技術コンサルタント)が、 次世代のデータセンタでは 大規模数量のAIプロセッサ(GPU、TPU、NPUなど)を効率的に接続する事が重要課題であり、数T bit/sの大容量で数m~数百mの光インターコネクトが期待されていると発表された。

以上、3日間の講演を通して筆者が興味を抱いた発表の概要を述べたが、改めてエレクトロニクス実装技術は、デバイスでは先端ロジック半導体、光電接合、パワー半導体etc…、アプリケーションでは ハイパースケール・データセンタ、ヘルスケア、自動車、宇宙衛星etc…といった広範な領域をカバーしている事を改めて感じると共に、半導体立国に再挑戦しようとする日本において、拡張と充実が期待される産学連携領域である事も実感した。

志田 啓之(グローバルネット株式会社 マーケティング部 シニアディレクター)

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