Siウエハの生産状況と今後の展望

2021年、世界の半導体産業は、半導体不足というワードが世界中を飛び交い、自動車や家電をはじめとした周辺産業の工場の操業にも大きな影響を及ぼした。半導体の原料となるSiウエハも旺盛な市場に応えるべく、フル生産で産業を支える役目を担った。今回は半導体用Siウエハの生産状況と今後の展望を、世界市場と主要5社の動向を通じて見ていく。

Siウエハの全体動向

SEMIが発表している2020年の世界のSiウエハの出荷面積は2019年比5%増の124億700万平方インチとなり、メモリバブルが崩壊し、減産傾向にあった2019年からの回復を遂げた。四半期ベースでは、第4四半期(10〜12月)が最も出荷量が多く、新型コロナウイルスパンデミックからの世界の回復傾向とともに伸長した。


2021年世界のシリコンウエハ出荷面積は、発表されている第三四半期までで、前年を大きく上回る出荷面積の伸びを示し、第三四半期までは前年比14.2%増となり、最大の出荷量であった2018年をも大きく上回る形で伸長している。第三四半期だけでは、前年同期比16.4%増とこちらも大きな伸びを示した。今年2月に発表された2021年の総出荷量予測は125億5,400万平方インチであり、現時点の伸び率では、予測を大幅に上回る形で需要の増加が続いている。
企業毎での、2020年のSiウエハの世界シェアは、日本の信越化学工業が1位で31.0%、SUMCOが2位で23.8%、台のGlobal Wafersが3位で15.7%、韓国のSK Siltronが12.3%、Global Wafersと合併した独Siltronicが12.1%で続いている。

主要5社の動向 

信越化学工業

業界最大手である信越化学工業は、2021年第二四半期まで(4〜9月)のSiウエハを含んでいる電子材料部門の売上高を前年同期比14.7%増の3,355億円と発表した。
生産に関してはフル稼働が続いており、2023年以降に現在の主力サイズである300mmの原料となる結晶SiのインゴットとSiウエハ、エピタキシャルSiウエハの各段階への投資が検討されている。同社の斉藤恭彦社長は「販売増量を盛り込んだ長期契約の交渉は進んでいる」と説明し、今後も需要は右肩上がりで伸長していくと見込んでいる。
また、200mmサイズに関しては、車載半導体をはじめとした産業分野での利用など、高性能ロジックを中心とした300mmよりも用途が幅広いことから、世界的に需要に対して全メーカー共に供給が不足していると見ている。当分は古い設備の改修や生産性向上、歩留まりの改善といった地道な作業を継続しながら、少しでも多く供給していきたいとしている。

SUMCO

Siltronicと台Global wafersの合併により、シェアは3位となったSUMCOだが、TSMCに向けてハイエンド用300mmウエハを供給するなど、引き続き業績は好調に推移している。2021年度第三四半期の売上高は前年同期比21%増、前期比6%増と伸長を続けている。同社の展望では、300mmウエハはロジック向けだけではなく、メモリ向けでも需要が逼迫していると説明した。生産改善を図っているが、未だに供給が需要に追いついていない。200mmウエハも、信越化学同様に産業向けの引き合いが強く、需給が逼迫している。
今後の方針としては、グリーンフィールド投資として、300mmの先端プロセス用ウエハ増産のために、約2,000億円を佐賀県伊万里市の同社工場の設備増強に、272億円を長崎県大村市のSUMCO TECHXIVに使用する。これによって、生産量を2024年には月産で300万枚程度を確保できる見通しとなる。また、11月には、約1,150億円を投じて台湾に新工場を建設することを発表した。主要顧客であるTSMC向けに充分に先端300mmウエハを供給するためと見られている。SUMCOでは、これらの設備増強によって、ようやく向こう5年の需要と供給のバランスが整ってくるという見方をしていると思われる。

台 Global Wafers

台湾のSiウエハメーカーで、世界第三位の競争力を持つGlobal Wafersは、世界第4位の独シルトロニックを買収したことにより、SUMCOのシェアを追い抜き、世界第2位となった。同社も業績は好調に推移しており、2021年のQ3売上高は、1億5,364万NTドルとなり、前年同期比で9.7%増となった。
今後の見通しとしては、5Gへの移行、EVへの移行による化合物半導体の市場増加などにより、半導体市場も引き続き増加することから、ボトルネック解消に専念し、生産量を増加させてSiウエハの供給量を増加させて行くとしている。

韓 SK Siltron

同社は韓国の財閥であるSKグループ内の1社であり、その中にはDRAMのトップメーカーであるSK Hynixも含まれている。同社の2021年第三四半期の売上高は、前年同期比9%増の4,800億ウォンとなった。
今後の見通しとしては、同社も他社同様に積極的な投資を行っており、子会社のSK Siltron CSSは21年7月14日、ミシガン州ベイ郡の拠点に330億円を投資し、高給技能職150人を雇用し、EV向けの材料生産とR&Dに充てることをを発表した。また、同財閥に属するSK Hinix向けのCMOSイメージセンサー供給のために、SK Hinixの清州工場内の遊休クリーンルームを利用して、月産2~3万枚のイメージセンサー用の300mmエピタキシャルウエハの生産に乗り出していると見られている。ソニーとサムスンが激しいシェア争いを展開するCMOSイメージセンサー業界だが、現在、SK Hinixもシェアを拡大しようと積極的な動きを見せている。

独 Siltronic

Global wafersに買収されたSiltronicだが、半導体供給ラッシュの好影響を受けたことによって、業績は2021年Q2比で9%の上昇、2021年のQ1からQ3までの業績で比較すると、11%の上昇となった。同社の今後の展望としては、6インチ、8インチ、300mmのすべてのウエハの需要は引き続き旺盛となり、同社のラインもフル稼働を続けている。同社では今期始めの予測を10%の売上増加を予想していたが、現時点ではそれを上回る15%の増加を見込んでいる。
 また、現在シンガポールに300mm向けの新工場を建設しており、2024年末までの総投資額20億ユーロはこれまでの同社の投資額でも最大となる。この工場は同社の中でも最も近代的な設備となり、工場ではポリッシュド、単結晶、エピタキシャルの各ウエハを製造する。同社がこの新工場建設を発表した際、SUMCOの株価が下落した。その理由はSiltronicが供給体制を整えることで、米Intelや韓Samsungといった顧客向けが、ウエハの価格競争に巻き込まれると危惧されたことによる。