半導体用語集

液体封止チョクラルスキー法(LEC法)

英語表記:Liquid Encapsulated Czochralski method

 この方法はCZ法の一種であり、融液表面を液体状物質(封止剤)で蓋をすることを特徴とするためこの名がつけられている。主に化合物半導体など融点における揮発性分の蒸気圧が高く分解しやすい結晶の合成・成長に適用されている。成長の原理や成長速度・形状の決定要因、不純物の分布についてはCZ法およびこの基となった引き上げ法と同じである。合成を同時に行う場合には直接合成LEC法と呼び区別することがある。GaAsやGaP、InPといった工業的に利用されている化合物半導体の成長では封止剤として高純度なガラス状酸化ホウ素(B₂O₃)が用いられている。酸化ホウ素は500~600℃で軟化して無色透明の液体になり、1,500℃でも原料に対して化学的にほぼ安定であり、またほとんど蒸発しない。酸化ホウ素中の水分は化学的安定性、粘度に影響を与えるのでその濃度が厳しく管理されている。この効果によって融液中の不純物が除去されることが知られている。 GaSbもLEC法で成長されているが、融点が712℃と低いため通常の酸化ホウ素では粘度が高くて成長が困難である。この場合、酸化ホウ素にNa₂AIF₆(3.3mol%)を添加して粘度を低下したものやKCI+NaCI共晶が用いられる。るつぼとしては、酸化ホウ素がブリッジマン法などで使用される石英るつぼを侵食するので、熱分解法でるつぼ状に成長・整形されだ窒化ホウ素(pBN)るつぼが用いられる。pBNも不活性ガス雰囲気では 1,500℃でも安定である。
 LEC法によるGaAsの成長手順は以下のとおりである。まず、pBNるつぼ内にブリッジマン法などで合成した原料を詰め、その上にディスク状に整形された酸化ホウ素を置き高圧CZ成長装置に設置する。次に、装置をいったん真空排気した後不活性ガス(アルゴンや窒素)を10~50atm程度充填し、酸化ホウ素軟化温度に保持する。酸化ホウ素が軟化し、原料を覆うことを確認した後融点以上に昇温して融液を作成する。この間に雰囲気圧力を成長に適した圧力(数~10atm)に調整する。なお、融液からのAsの蒸気圧は約0.9atmである。この後、種子結晶を酸化ホウ素(1~数cm)内に貫通させ、融液と接触させる。これ以降は通常のCZ法と同じで、温度と引き上げ速度(~1cm/hour)の調整により(ネッキング)、肩部、定径部、尾部を成長する。この課程で通常のCZ法と異なるのは温度分布と直径の監視法である。封止剤は粘度が高く対流が少ないので下部は融液温度、上部は雰囲気温度とした温度分布が発生する。したがって多量の酸化ホウ素を用いて厚くするほど温度勾配が低下し、転位密度が減少する。結晶成長全体を酸化ホウ素層内で行うFEC(Fully Encapsulated Czochralski)法も提案され、Inの添加による転位増殖の防止効果と合わせて、4インチ直径までの無転位結晶がえられている。一方、封止剤は融液からの熱の放出も阻害(いったん昇温するとなかなか温度が下がらない)しているので、融液温度の制御を困難にしており酸化ホウ素が多いほど形状制御が難しくなる。融液に磁界を加えると対流が滅少し、融液温度が変化することを利用した直径制御法も提案されている。 LEC法では、酸化ホウ素中にGa、Asが徐々に溶け込み黒くなることがあり、光学的に直径を観察するわけには行かないので、引き上げ軸あるいはるつぼ軸に取り付けた重量センサにより重量変化をモニタしている。GaPやInPは融点におけるPの蒸気圧がそれぞれ約35、27atmと高いので成長も40~50 atmで行われる。現在ではLEC法によりGaAsでは主に3(直胴部長約20~60cm)~4(同15~20)インチ、InPでは2(同5~10)~3(同10~25)、GaPで2~2.5インチ(同10~12)のものが量産されている。
 直接合成LEC法は装置が複雑で高価であるなどの理由で、高純度の要求されるGaAs以外ではほとんど行われていない。この方法では数mm角の塊状AsとGaが原料として用いられる。融液作成・成長の手順は大体次のとおりである。原料を酸化ホウ素とともにpBNるつぼに充填した後、 30~50 atmの不活性ガスに置換後昇温して酸化ホウ素を軟化させ、軟化後さらに70~90atmに昇圧してAsの融点(817℃、蒸気圧約35~50atm)近傍に保持する。Asが融解し出すとすでに液体状態であるGa(融点 30℃)と接触し激しく反応してGaAs固体に変化する(この時の反応熱により固体温度は急上昇するが、反応が終了すると急激に冷える)。反応終了後は昇温・融解・雰囲気圧力調整を経て、LEC法と同じ手順で単結晶を成長する。直接合成LEC法による無添加GaAs結晶中の主な残留不純物は浅いアクセプタ準位を作る炭素(10¹⁵~10¹⁶atoms/cc)であり、As過剰点欠陥が作る深いドナー準位EL2(1~2 × 10¹⁶/ cc)によって補償されるので、結晶は半絶縁性を示す。半絶縁性結晶はイオン注入法によるGaAsIC作成に使用されている。


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