半導体用語集

金および白金拡散

英語表記:diffusion of Au and Pt

金や白金などの5d遷移金属は、シリコン結晶中では鉄や銅などの3d遷移金属と異なる特異な挙動を示す。Au原子はシリコンの置換型原子として格子位置に存在する時は、深い準位を形成してドナーとしてもアクセプタとしても働き、少数キャリアのライフタイムを短くする。Auは格子間原子(侵入型)もシリコン中に存在し、他の侵入型金属原子のように速く拡散する。置換型のAu(Ausi)の固溶度よりはるかに高い。シリコンウェハの一方の側からAuを拡散させると、表側と裏側の両方でAusiが高濃度となり、ウェハ内部では低濃度の広い領域ができ、ほぼ対称なU字型の深さ分布を示す。
以上のAuの挙動は、Auはシリコン中でAuSiとして安定だが、拡散時にはAuとなって高速で動くことで説明できる。AuSiが変換される過程には原子空孔(V)が関与する反応
  AuSi ⇆ +V
によるFrank-Turnbull機構(FrankーTurnbull meehanism)と、Siの侵入型原子(I)が関与する反応
  AuSi+I ⇆ Aui
によるキックアウト機構(kick-out mechanism)がある。
表側でFrank-Turnbull機構またはキックアウト機構により、AuiとなったAu原子は高速で拡散して裏側に到達し、ウェハの深さ方向にほぼ均一に分布する。しかし表面からVが発生すると、Frank-Turnbull機構の逆反応により、また表面からIが発生するとキックアウト機構の逆反応により、表裏面近傍でAuSiの濃度が高くなり、いずれの機構でもU字型のAuSiの濃度分布が生じる。両機構とも系の自由エネルギーが低くなるように反応が進行し、拡散させる温度でのIとVの平衡濃度に強く依存する。


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