半導体用語集

電子スピン緩和

英語表記:electron spin relaxation

 常磁性体に時間的に変化する磁場を加えると、一般に磁気モーメントの変化は外部磁場には完全には追随できずに遅れを生じる。これを磁気緩和現象というが、磁性の根源となっている電子スピンのスピン同士の相互作用や、格子との相互作用により説明される。磁場が弱い時には、10⁻¹⁰sくらいの時間で電子スピン間の相互作用により緩和し、磁場が強くなると電子スピンと格子の相互作用によりもっと長い時間(10⁻¹⁰~10⁻⁶s)で緩和する。一般的にはこれを電子スピン緩和という。半導体では伝導帯中の電子のスピンが緩和する(何らかの方法で向きを揃えたスピン偏極状態が個々のスピンの反転により均ー化されていく)現象を指す。角運動量+1(または-1)を有する円偏光を励起光として用いる場合、バンド間遷移の選択則から電子のスピンを揃えることが実験的に可能であり、発光または吸収特性の円偏光の偏極度の時間変化からスピン緩和時間を見積ることができる。半導体の伝導帯の電子は一般的にs状態で記述されスピンはよい量子数であるので、運動量の変化やフォノン散乱などによってもスピン状態は変化しない。したがって、電子スピンの反転には二次的なメカニズムを考える必要があり、これらのメカニズムとしてElliot - Yafet (EY)、D'yakonov - Perel'(DP)、Bir-Aronov-Pikus (BAP)メカニズムが存在する。EYではスピン・軌道相互作用によって生じる伝導帯と価電子帯の混合効果により、フォノンや不純物による散乱などに伴ってスピンが反転する。DPはせん亜鉛鉱構造を有するⅢ-Ⅴ族化合物半導体の反転対称性の欠如の結果生じる伝導帯の分散関係のk³項に起因するものである。さらにp型の半導体においては交換相互作用によるスピン反転作用であるBAPメカニズムが強く効くようになる。これら三つのスピン緩和メカニズムは互いに独立であり、高温・低ドーピング濃度領域ではDPが、低温・高ドーピング濃度領域ではBAPが支配的になる。またバンドギャップの小さい材料や低次元構造ではEYも強く効くことが知られている。一般にGaAs系では極低温で数10psから数100ns、室温付近で数ピコから100ps程度のスピン緩和時間である。一方、価電子帯の正孔は主にp状態で記述され、スピン・軌道相互作用によりスピンが良い量子数ではなくなるので、エネルギーと運動量の緩和に伴いスピン状態が変化する。したがって、正孔スピンの緩和は電子スピンの緩和にくらべてきわめて速く、GaAs系では緩和時間はサブピコ秒から数ピコ秒のオーダである。電子と正孔がクーロン力で結合した励起子の場合、励起子の交換相互作用によってスピンが緩和する。励起子のスピン緩和時間は電子スピン緩和と正孔スピン緩和の中間的な値となる。

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