半導体用語集
アトムプローブ電界イオン顕微鏡
英語表記:Atom Probe Field Ion Microscope: APFIM
アトムプローブ電界イオン顕微鏡(Atom Probe Field Ion Microscope: APFIM)は,電界イオン顕微鏡(FIM)に飛行時間型質量分析器を取りつけたもので,金属表面の個々の原子をFIMにより観察し,それらを電界蒸発によりイオン化し,その飛行時間を測定することによりこれらの原子の質量を測定する単原子検出能を持った分析装置である。1959年にE. W. Mullerにより発明されてからこれまでにいくつかの種類のアトムプローブが開発されてきたが,現在実用的に使用されているアトムプローブは一次元アトムプローブと三次元アトムプローブに大別される。
図1(a)に一次元アトムプローブの原理が模式的に示されている。先端の半径が100nm程度の針状試料を70K以下に冷却した後HeやNeなどの結像ガスを導入し,高電圧を加えると試料表面には20~40V/nmという非常に高い電界が加わる。この電界は試料表面上の突出した原子の部分で局所的に高くなる。このため結像ガスは突出した原子の表面で電界イオン化と呼ばれる現象によりイオン化されてスクリーン方向に放射状に加速される。結像ガスのイオンがスクリーンに衝突すると輝点を発し,針状試料表面の原子配列を投影した像がえられる。これがFIMの原理であり,像の倍率は試料半径rと試料とスクリーン間の距離Dの比(D/r)で近似され,通常200万倍程度である。図2にFIM像の例としてタングステンのHeイオン像が示されている。FIM像は針状表面で突出している原子を平板スクリーンに投影した像であるので,ステップを形成する原子列はFIM像上では同心円状にみえ,さらに高指数面においては個々の原子が観察される。矢印で示されているのは二つの結晶間の界面(結晶粒界)である。このようにFIM像は結像ガスの試料表面でのイオン化を利用することにより金属表面の原子の像を明瞭に映し出すことができるが,FIM像観察に必要な電界よりもさらに高い電界を加えると,今度は試料表面の原子そのものがイオン化され始める(電界蒸発)。このような原子の電界蒸発をDC電圧に重ね合わせた高圧パルスで行い,原子がイオン化される瞬間からこれが加速されて検出器に到達するまでの飛行時間を測定することによりイオンの質量を決定することができる。原子は電界蒸発により試料表面から1原子層ずつイオン化されていくので,図1(a)で示されるようにプローブホールで覆った領域の深さ方向の濃度プロファイルが測定できる。面内方向の分析の空間分解能はプローブホールの試料表面への投影径で決まり,これは試料半径と試料とスクリーンとの距離(FIM像の倍率)によって変化する。通常0.5~2nm程度が実用的な面内方向の分解能である。一方で原子が1原子層ごとに蒸発するという性質を利用すれば深さ方向に1原子層(0.2nm)の分解能をえることができる。アトムプローブはイオンを飛行時間測定により同定するので検出効率は原理的には質量にかかわらず一定である。したがって水素,窒素,酸素,炭素,ホウ素などの実用材料で,特に重要な軽元素の定量分析も可能である。
一次元アトムプローブではプローブホールに覆われた領域の中の原子を検出することにより濃度を決定し,深さ方向の一次元の濃度プロファイルをえるが,アパーチャ内での原子の位置情報はまったく失われてしまう。三次元アトムプローブは図1(b)に示されるように位置敏感型検出器を用いて個々のイオンの飛行時間と位置を同時に検出する装置である。これによって,FIM試料表面での原子の二次元マッピングを原子レベルの分解能で描くことができる。さらに原子を試料表面から連続的に蒸発させてこのような二次元マッピングを試料の深さ方向に拡張することにより,原子の位置を三次元的に再構成して表示することが可能である。分析される試料の領域は通常20×20×200nm程度であり,この領域内のすべての原子の分布状態を三次元的にほぼ原子レベルの分解能で可視化することができるので,材料の微細組織のナノスケールの定量分析に活用されている。
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