半導体用語集

アハラノフ・ボーム(AB)効果

英語表記:Aharonov-Bohm effect

 略してAB効果ともいう。コヒーレントに伝搬する電子波がいったん二手に分けられた後,再び重ねられる時,二つの経路が囲む領域を貫く磁束の大きさにより,電子波の干渉パターンが変化する現象で,1959年,AharonovとBohmにより予言された。電子がその波動性により,同時に二つのスリットを通り抜けた後,検知器板上に達し,そこに干渉縞を示す現象は,電子線回折としてよく知られている。この時,電子線の進む方向に垂直に,経路内に局在する磁場Bを作り(たとえば細長いソレノイドをおくことにより実現される),電子波がこの局在磁場に触れることなくその両側を二つに分かれて進んだ後,再び検知器板上で重なるようにした場合,干渉縞は磁場のなかった場合からずれる。このことは,電子は磁場の存在しない領域を走ったにもかかわらず,その振る舞いが磁場に影響されるという点で一見奇異にみえるが,これは純粋に量子力学的な効果であって,一般に磁場Bがある領域に局在しても,これをもたらすべクトルポテンシャルAはその外へ広がっていること,そして波動方程式によれば電子の波はBではなくAから作用をうけてその位相が変わっていくことに由来する。これはべクトルポテンシャルが基本的・実在的なものであることを示すものとして,ゲージ理論の立場を側面的に支援するものである。この効果が存在し量子力学による予言と合致することは,近年,超伝導体を用いて磁場を遮蔽し,電子線ホログラフィの方法を用いた外村らの実験によって証明された。
 AB効果は,当初,散乱の多い固体中では観測不可能であろうと考えられていたが,1985年,Webbらにより,極低温で測定した金の極微小リングのコンダクタンスの磁場依存性に,AB効果から予想される特徴的な周期的振動が観測された。このように散乱の多い固体中でもAB効果という電子波干渉効果が観測されるのは,電子波の位相コヒーレンスは弾性散乱では失われず,電子-電子散乱やフォノン散乱のような非弾性散乱によってのみ失われることを反映している。一般に,電子-電子散乱やフォノン散乱は,温度の低下とともに散乱確率が減少していくため,極低温領域では電子波の位相コヒーレンスは数μmのオーダに達し,サブミクロンに加工された固体試料中でもAB効果が観測可能になる。その後,高移動度ガリウムヒ素へテロ構造をリング状に加工した試科においてもAB効果が観測された。また,磁場によるAB効果や,電子波の位相差を静電気力によって引き起こす静電型AB効果を用いてトランジスタ動作を実現しようとする試みもなされている。


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