半導体用語集

エピタキシャル成長機構

英語表記:epitaxial growth mechanism

エピタキシャル成長で結晶が成長するには成長材料中の成長種が基板結晶表面に到達し、結晶層中に組み込まれる必要がある。エピタキシャル成長機構は成長材料の反応炉内での化学反応、成長面への成長種の輸送過程、表面での原子の移動と結品格子の形成からなる。ここでは Si/Siエピタキシャル成長機構について述べる。Si/Siエピ成長はSiを含んだ原料ガスをH、キャリアガスとともに反応 炉内に導入し、高温(~1,100°C以上) に加熱されたSi基板上にSi単結晶を成長させる方法である。原料ガスはSiCl4やSiH4などが用いられ、前者はH、還元反応、後者は熱分解反応で基板上へSiが析出する。エピタキシャル成長速度の温度依存性は温度領域により三つの領域に区別できる。低温での、温度上昇に従い成長速度が大きくなる表面反応律速領域、高温での、温度依存性の小さい拡散律速領域、およびさらに高温での、温度上昇に伴い成長速度の低下する均一気相核生成領 域である。均一気相核生成領域では原料ガスの気相反応が生じており、熱分解しやすいSiH4ではパーティクルの 増加、ウォールデポなどが生ずる。 SiCl4ではH、還元で生成するHCIの割合が増加し、この HCIによるエッ チングと単結品成長が競合するようになり、全体として成長速度の低下が生ずる。したがって、均一気相核生成領域はエピ成長にとって不適切な領域である。拡散律速領域は、基板表面上部の境界層内での反応種の拡散速度が律速過程である。この領域では成長速度の温度依存性が小さいため、成長速度の制御が容易であり一般にエピタキシャル成長はこの領域で実施される。この領域での成長速度へ影響する因子は、境界層の厚さと境界層中での拡散である。境界層厚は気体の粘度、密度およびガス流速に依存し、平板に平行に流れる場合の境界層厚は、境界層厚(粘度/密度・速度)2 で与えられ る。境界層厚が薄いほど拡散時間は短くなるので、たとえば、流速を速くすれば成長速度は大きくなる。拡散は反応種の主流ガス中の濃度と基板表面の 濃度差で決まるが、気相と基板に温度差がある場合は、濃度差拡散と逆の方向に熱拡散が生じ有効拡散係数は小さくなる。表面反応律速領域では基板表面での反応種の吸着と脱離、表面移動 (migration)後、結晶格子に組み込まれ安定化する。この領域では成長速度の温度依存性はArrheniusの式、 結成長速度=A・exp(-⊿E/kT) で表わされる。表面でのミクロな結品成長機構には、コッセル機構およびそれを改良したBCF機構がある。コッセル機構では、成長を完了した欠陥のない完全に平坦な面と、成長途中のステップと呼 ばれる段差を持つ部分を想定する。ス テップの一部にはキンクと呼ばれる一 原子の大きさだけずれた部分があり、 成長原子は表面に沿ってmigrationしキンクで結品格子に取り込まれる。 これが繰り返され一原子層の成長が完了する。コッセル機構の問題点は、一つの結品層の成長が完了し、その面が完全結品の場合には次の成長の中心となる核の形成を説明できない点にある。これに対してらせん転位に基づくステップの前進という考えを導入したBCF理論があり、現状ではこれが結品成長理論の基礎となっている。


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