半導体用語集
クラスタイオンビーム法
英語表記:cluster ion beam method
数10個以上の原子が結合したクラスタをイオン化し,加速することでクラスタイオンビームを発生し,薄膜堆積やエッチングに利用する技術をクラスタイオンビーム法と呼ぶ。クラスタ粒子を発生させるには,圧力をかけたノズルからガスを噴出させ断熱膨張により凝縮現象を引き起こす。この時,使用するガスの種類,圧力,ノズル形状などによってクラスタサイズの分布や結合状態は変化し,そのサイズはあらかじめ,実験的に調べておく必要がある。金属などの材料のクラスタ粒子形成では,密閉型のるつぼにより加熱,蒸発させ,内部圧力を上げた状態でノズルから断熱膨張させることもできるが,ヘリウムなどの不活性ガスと蒸発した金属原子を混合させ,断熱膨張させる場合もある。また,固体材料を気化する手法として,イオンビームスパッタリングやパルスレーザ照射による蒸発を利用する例もあり,これら気化した原子と不活性ガスとの混合により断熱膨張させる場合も報告されている。これらの断熱膨張によりクラスタ化した粒子はスキマーなどにより方向性を制御した後,電子ビーム照射によりイオン化し,必要とあればクラスタサイズを質量選別した後,必要なエネルギーに加速される。
イオンビームの運動エネルギーが原子当たり100eV程度以上になると,試料表層の欠陥形成やスパッタリングが顕著になるため,薄膜堆積への応用においては,低エネルギーのイオンビームを発生する必要がある。しかしながら,原子当たりの電荷が1以上では,工業的に利用できる堆積速度をえるには莫大なイオン電流を形成しなければならず実用的ではない。クラスタイオンビームでは,数100から数万の原子集団は一荷に帯電しているため,原子当たりの運動エネルギーを数10eV程度に容易に制御でき,原子流としても十分な堆積速度に対応する値がえられる。また,堆積される薄膜の一般的な特性としては,基板への密着力が強く,表面の平坦性も高いなどの特徴を有している。具体的なクラスタイオンビーム法の適用例としては,X線反射ミラー用の金薄膜の堆積に使用し,従来よりも10%以上の高い反射率がえられたとの報告がある。多元クラスタイオンビーム源と,酸素雰囲気中での反応性クラスタイオンビーム法により高温超伝導薄膜作成に適用した例,フラーレンの結晶薄膜作成例,デカボランのクラスタイオン注入によりSi MOS FETでの浅い接合形成に利用した例など,多岐にわたる研究が報告されている。一方,Arなどの不活性ガスを用いたクラスタイオンビームによりダイヤモンド薄膜のエッチング応用も検討されている。この場合,エッチング後の表面へ平坦性の改善が顕著にみられ,この理由として,基板に衝突したクラスタイオンが崩壊,散乱する過程で,周辺凸部を選択的にスパッタエッチングするものと解釈されている。
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