半導体用語集

ニアフィールド走査型光学顕微鏡(NSOM)

英語表記:NSOM: Near-field Scanning Optical Microscope

 NSOM(またはSNOM)は回折限界により0.61λ/NA(λ:波長,NA:開口数)に制限されていた従来型の光学顕微鏡を超える高い分解能でサンプルの光学特性が測定できる装置である。波長以下の径を持つ微小開口に光を入射した場合,光はこの微小開口部を通ることはできない。しかしながら,微小開口部の極近傍にはエバネッセント光と呼ばれる光が存在する。エバネッセント光は,通常状態における媒質中の光の波長にくらべて波長の短い光であり,この光を用いることにより高い分解能をえることができるが,開口部からの距離に対して指数関数的に減衰し,空間中では非伝播光となる。このエバネッセント光を光学測定に利用する場合には,エバネッセント光が減衰する前に,開口部の近傍に物体を近接させ,散乱させることにより伝播光に変換する。この時の近接させる距離はnmオーダであり,非常に高度な位置決め技術が必要である。従来の位置決め技術ではこの精度を実現することは困難であったが,最近の走査型プローブ顕微鏡(SPM)技術の発達により高精度な位置決めが可能となった。
 具体的な装置構成は光ファイバの先端を先鋭化し,先端に微小開日を設け,光の漏れを防止するため開口部以外をメタルでコートしたプローブが一般に用いられる。このプローブを利用して,SPM技術によりプローブとサンプルの距離が制御される。制御の方式としてはプローブ先端の先鋭性を利用した原子間力顕微鏡方式,サンプル面に対してプローブを平行に振動させサンプル-プローブ間に働くシアフォースを利用するシアフォース方式,エバネッセント光の距離依存性を利用するフォトントンネリング方式,プローブとサンプルを導電性とし,両者にトンネル電流を生じさせて制御するSTM方式などが用いられる。測定に用いられる装置構成は,光検出系以外はSPMの要素がそのまま応用され,三軸微動素子により距離制御をかけながらラスタスキャンすることにより二次元平面内での光学特性がマッピングされる。この時,距離制御に使用した信号を画像化すれば,光学特性に加えて凹凸像などのイメージも同時に測定される。

 NSOMの測定モードには,サンプルの性状や測定目的に応じて図1に示すように,いくつかの形態が考えられる。
 (1)イルミネーションモード:プローブに光を入射し,プローブ先端からサンプル面にエバネッセント光を照射して,散乱光または発光を対物レンズで集光しフォトマルなどの光検出器により光信号を検出する。透過光を集光する透過モードと反射光を集光する反射モードに分類される。
 (2)コレクションモード:サンプル上の発光や,サンプル表面に形成されたエバネッセント光をプローブで集光して,光ファイバにより光信号を検出器に導く方式である。
 (3)イルミネーション/コレクションモード:イルミネーションモードにより局所的に励起光を照射し,その時の発光を同一のプローブでコレクションモードにより集光し,励起光と検出光をフィルタなどで分離して光信号を検出するモードである。

 NSOMの特徴としては,
(1)従来の光学顕微鏡を超える光学分解能がえられる。
(2)SPM技術で制御を行うため,凹凸情報が同時にえられ光学特性との対比が可能。
(3)局所的な励起,集光が可能。

 応用としては,
(1)半導体デバイスの評価:量子ドット構造などの半導体発光デバイスにおいて,局所的な光学特性の評価に利用される。極低温環境下でサンプル表面を局所的に励起し,フォトルミネッセンスを集光する。代表的な測定モードはイルミネーションコレクションモードである。
(2)生体,有機高分子の評価:DNAや細胞などの生体サンプルや単分子レベルでの有機高分子サンプルの評価に利用され,蛍光を測定する場合が多い。代表的な測定モードはイルミネーションモードである。
(3)超高密度記憶装置への応用:NSOMの原理を応用して,超高密度記憶装置の記録媒体や光学ヘッドの開発ツールとして利用される。記録媒体の特性や記録方式により様々なモードが使用されている。


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