半導体用語集
ブロッホ振動
英語表記:Bloch oscillation
強い電界により電子がブリユアンゾーンの端まで加速され,ブラッグ反射が起きると,実空間での電子の運動は振動的となる。一般に,この振動的な電子の運動のことをブロッホ振動と呼び,1928年,Blochにより予言された。しかし,現実のバルク半導体では散乱のために電子をブリユアンゾーンの端まで電界で加速することは不可能である。
1970年,EsakiとTsuは,障壁厚さが薄く,互いに強く結合した多重量子井戸構造(超格子と呼ばれる)中では,バンドの折り返し効果によりブリユアンゾーンが小さくなるため,ブロッホ振動が実現できる可能性があることを指摘した。超格子中の量子準位は,トンネル効果により狭いバンド(ミニバンド)を形成し,電子は結晶全体を伝搬することができるようになる。この時,超格子中を層に垂直に伝搬する電子の分散関係は,Ez(kz)=1/2⊿E[1-cos(kzd)](kz:超格子の面に垂直方向の電子の波数,d:
超格子の周期,⊿E:ミニバンド幅)と表わされる。このようなバンドの中で電子が加速されると,その速度vgは,式(1)となる(下部参照)。ただし,v₀=⊿Ed/ħω₀=edF/ħFは外部電界である。ω₀はブロッホ周波数と呼ばれる。さらにt=0の瞬間に,x=0にあった電子の位置座標xの時間変化は,式(2)となる(下部参照)。
このことからわかるように,超格子のミニバンド中では,電界により電子がブラッグ反射されるため,電子は角周波数ω₀で空間的に振動する。狭義には,このような振動をブロッホ振動と呼ぶ。ブロッホ振動のユニークな点は,その振動数ω₀を外部から印加する電界強度により制御できること,さらに,たとえばdを10nmとすると,10³~⁴V/cm程度の電界を印加することにより,数100GHzから数THzの振動数を実現できることである。Esakiらはこのようなブロッホ振動をTHz領域の発振器に応用することを提案した。
このような議論は,電子の分散関係が電界の印加によっても変化しないという半古典的な議論に基づいているが,超格子構造に一定の直流電界Fを印加すると,系の並進対称性が崩れるので,ミニバンドは離散的な準位に分裂する。隣接する層間では,電界によるポテンシャルエネルギーがhω₀だけ異なるため,エネルギー準位の間隔は一定値hω₀になる。このような等間隔の離散準位は,その形からシュタルク梯子(Stark ladder)と呼ばれており,光学的な測定からそのような準位の存在が確認されている。上記の古典的ブロッホ振動は,量子力学的にはシュタルク梯子準位間の量子ビートとみることができる。
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