半導体用語集
ラザフォード後方散乱法
英語表記:RBS: Rutherford Backscattering Spectroscopy
RBSは,イオンビームを用いた固体表面近くの元素分析手法の一つである。非破壊分析であり,深さ方向分析が可能である。またイオンの結晶中でのチャネリング効果を利用して,格子間原子の情報をえることが可能である。
(1)深さ方向分析(depth profile analysis):~1µm
(2)組成分析:H以外の全元素
(3)定量性:~0.1%
チャネリング効果:~10¹⁶atom/cm²(元素による)
高速イオンが固体表面に衝突すると,エネルギー損失を伴う弾性衝突が起こる。古典的な二体衝突から後方散乱するイオンのエネルギーを測定することにより,固体表面の元素(質量)を特定できる。
イオンが固体表面から内部に入り,エネルギー損失を起こしながら反跳し後方散乱する。そのイオンの反跳エネルギーを測定することによリ,深さ方向の情報(深さ,内部元素)を特定できる。この情報をえるには,後方散乱断面積,内部元素の密度などが必要である。実際には,えられたスペクトルと理論計算値を比較検討するものである。
入射イオンが結晶軸に平行に入射すると,チャネリング効果が現われる。後方散乱するイオンは収量が減少するが格子欠陥に異なる元素があるとこの元素に特有の反跳が起こる。この特有の反跳スペクトルを測定することで,格子欠陥構造や格子軸の情報をえることが可能である。
ラザフォード後方散乱法の装置は,イオン源を装備した加速器,試料を装着するゴニオメータ,散乱イオンの検出器,およびコンピュータを含む計測系から構成される。
(1)加速器
入射イオン種としては,多くの場合,数100keV~4MeV程度のHeイオンが用いられる。イオン源としては,RFイオン源,PIGイオン源,デュオプラズマトロンイオン源が用いられる。負イオン源としてはCs⁺イオンによるスパッタ型イオン源がある。
加速器としては,回転する絶縁ベルトを用いたバンデグラフ方型,絶縁材のペレットを用いたペレトロン型,多段の倍圧整流回路により加速電圧を発生させるコッククロフト型がある。コッククロフト型は数100keVの加速用に用いられるが,イオン種を荷電変換させる方法を用いて,二段階で加速するタンデトロン型が3MeVまで加速できるようになり用いられるようになった。またビームが通過する経路,試料装着部分では,真空度 10⁻⁶Torrが必要とされ,簡単なターボ分子ポンプ,油回転ポンプを使った真空排気系が用いられている。
(2)ゴニオメータ周辺部
加速ビームは平行度が高く,ビーム径が一定となるように,試料に照射される前にスリットを通す。通常用いられるビーム径は1mm程度であり,チャネリング効果を測定する際には,0.1mm程度である。試料を装着するゴニオメータは,チャネリング測定のために2軸の回転機構を持ち,x,y,z軸を含めた5軸のゴニオメータが近年用いられている。精度としては回転方向で0.1度,x,y,z軸で0.1mmが必要とされる。またビーム量は試料から反射される二次電子量で測定されるか,試料を絶縁して電流計につなぎ測定される。
(3)検出器,計測系
検出器としてはシリコン表面障壁型半導体検出器(silicon surface barrier detector)が用いられる。一般の後方散乱スペクトルは検出器からの信号を増幅し,パルス測定する。多重波高分析は現在ではコンピュータが用いられ,計測と深さ方向分析がほぼ同時に行われるようになっている。またチャネリング効果測定では,ゴニオメータをコンピュータ制御し,結晶軸,方位を決定することも可能である。
このように,ラザフォード後方散乱法(RBS)は装置が比較的大きくなるが,組成分析,結晶の評価など,幅広く非破壊分析の手法として用いられる。また理論計算との比較分析という手法であり,その計算には試料の元素が,あらかじめわかっている必要があるということ,表面の重い元素と深い層の軽い元素との区別がつかない,という課題が残る。
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