半導体用語集
帯間光学直接遷移
英語表記:interband optical direct transition
光吸収や発光を伴う価電子帯と伝導帯との間での電子遷移において,遷移の前後で電子の波動べクトル変化が,関与する光の運動量に等しい時,帯間光学直接遷移という。別ないい方では,フォノンなど他の素励起との関与がない,光吸収や発光を伴う電子遷移をいう。エネルギー帯構造を運動量(波動べクトル)空間で表わした時,運動量変化のない(正確には無視できるほど小さい)垂直な遷移として表わす。一般に遷移の前後でエネルギー保存則と運動量保存則がなりたたなければならないが,光子(フォトン)の運動量は電子の運動量にくらべて無視できるほど小さいので,光子の消滅(吸収)や生成(発光)を伴う電子遷移の前後で,電子の運動量変化は無視できる。
半導体や絶縁体におけるエネルギー帯構造を運動量(波動べクトルk)空間で表わした時,価電子帯上端(項上)と伝導帯下端(底)とが同じ運動量位置(k=0)にあるような物質を直接遷移型という。エネルギーバンドギャップは価電子帯上端と伝導帯下端の差のエネルギーであり,光吸収や発光に関与するフォトンエネルギーはこのエネルギー以上であるため,直接遷移型物質の光学特性は帯間光学直接遷移が支配的になる。直接遷移は遷移確率が高い。高い効率での発光過程が望ましい発光ダイオードや半導体レーザなどの発光素子,特に半導体レーザにおいては,直接遷移型半導体材料が用いられている。
運動量空間で,波動べクトルに対してエネルギーが放物線状に変化する工ネルギー帯構造を仮定する。価電子帯の上端をエネルギーの基準にすると,伝導帯Ecおよび価電子帯Evは次のように表わされる。
Ec(k)=ħ²k²/2mₑ+Eg
Eᵥ(k)=-ħ²k²/2mₕ
ここで,kは波動べクトル,ħはプランクの定数,mₑ,mₕはそれぞれ電子,正孔の有効質量,Egはバンドギャップエネルギーである。
帯間光学直接遷移は図1に示すように,価電子帯と伝導帯の間を,垂直な矢印で表わされるような遷移であり,波動べクトルの変化はフォトンの運動量に等しく,通常無視できるほど小さい。光の吸収は光からエネルギーをえて,価電子帯から伝導帯への遷移であり,発光は伝導帯の電子が価電子帯へ遷移し,正孔と再結合する時に放出するエネルギーが光(フォトン)となる。いずれの場合もバンドギャップエネルギーより大きなエネルギーのフォトンが関与することになる。
上記のようにバンド構造を仮定すると遷移確率が計算できて,吸収係数や発光効率などを求めることができる。たとえば,直接遷移による光吸収では,その吸収係数αのフォトンエネルギー依存性は,バンドギャップエネルギーEgの近傍でフォトンのエネルギーhvを用いて
α∝(hv-Eg)^(1/2),ただしhv≧Egと書けることが知られている。ここでhv=Egの時の,フォトンエネルギーや波長を吸収端と呼ぶ。吸収端より短い波長の光は上式に従い連続的な吸収スペクトルを示す。
直接遷移型半導体としてよく知られている材料としては,すでに実用化されている発光素子に用いられている,GaAs,InP,GaNなどのⅢ-Ⅴ族化合物半導体,発光波長域の拡大や高性能化に向けて研究がなされている(一部実用化もされている),PbS,PbSeなどのⅣ-Ⅵ族化合物半導体,CdS,CdSe,ZnS,HgCdTeなどのⅡ-Ⅵ族化合物半導体,およびCuGaAl(SeS)₂などのカルコパイライトがある。いずれの半導体においてもそれぞれの材の混晶も用いられている。
なお,直接遷移に対して,間接遷移があり,遷移確率は直接遷移にくらべて小さい。
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