半導体用語集

広域X線吸収微細構造(EXAFS)

英語表記:Extended X-ray Absorption Fine Structure(EXAFS)

 X線吸収微細構造(XAFS)のうち,吸収端から約50eV以上,1,000eVもの広いエネルギー範囲にわたって現われるなだらかな波打ち構造をいう。EXAFSの原理は1971年にSayers,Stern,Lytleによって確立したものとなり,現在では局所構造解析手段として確立している。
 試料中のある原子がX線を吸収すると内殻電子が光電子となって放出される。この放出光電子の波動関数(外向きの球面波)が周囲の原子によって散乱されることで摂動を受け,終状態の一電子波動関数は元の球面波と散乱波の重ね合わせとなる。これが吸収係数に反映され,EXAFSを与える。吸収端近傍のXANESでは光電子のエネルギーが小さいので多重散乱が重要で,かつ,散乱ポテンシャルの計算も困難となるため理論的取り扱いが複雑であるが,光電子のエネルギーが高いEXAFS領域では通常一回散乱が支配的で,その場合吸収係数は簡便な式で記述できる。

下部の画像参照。

jは吸収原子に配位する原子を示し,等価な原子はひとまとめにするものとする。全体のx(k)はjに関する和で与えられるN,R,σはそれぞれ散乱原子jの吸収原子からみた配位数,原子間距離,Debye-Waller因子(原子間距離の分散,ガウス分布を仮定している)である。F(K),φ(k)はそれぞれ散乱原子jの後方散乱振幅,吸収原子と散乱原子jによる位相シフトである。Sは吸収原子によるintrinsic loss因子で,shake-up,shake-offなどの多電子遷移確率を差し引いた一電子遷移確率に対応する(0.7~0.9程度の値となる)。λ(k)は光電子の平均自由行程である。F(k),φ(k),Sを何らかの方法で見積もることができれば,実験でえられたx(k)をこの理論式でフィッティングすることにより、構造情報である配位数N,原子間距離R,Debye-Waller,似k), A(k), S見を何らかの方法で見積ることができれば,実験でえられた x(k)をこの理論式でフィッティングすることにより,構造情報である配位数 N,.原子間距離R,Debye-Waller因子σが決定できる。F(k),φ(k),λ(k)は理論的に計算でき,Sは未知試料と似た性質の構造既知の物賀で経験的に求める。あるいは理論を用いずに構造既知の物質のみから経験的にSF(k)exp〔-2R/λ(k)〕とφ(k)を求めることも可能である。F(k),φ(k),exp〔-2R/λ(k)〕はいずれも弱いR依存性を示すので,理論計算では実際のR近い値での計算を行い,また,経験的手法では既知・未知試料間でRが近いものを選ぶ必要がある。
 EXAFSでえられる情報は一次元的であるが,配向のある試料ではXANESと同様に直線偏光依存性を利用することで,結合方向の情報も加わる。これもよく表面EXAFSに適用される。磁性体に対して円偏光を用いると,XANESと同様に円二色性が観測され,磁気EXAFS(magnetic EXAFS)と呼ばれている。これは吸収原子周辺の原子の磁気モーメントに関する情報を含んでいるが,実験的にも理論的にも開発途上の分野である。
 通常えられる梢報としては配位数と原子間距離であるが,Debye-Waller因子は熱振動や静的ひずみを反映している。温度変化EXAFSを測定すると,熱振動によるDebye-Waller因子と静的ひずみに由来するものを分離できるので,他の手法ではえにくい熱的情報を与える手段としても利用できる。


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