半導体用語集

表面プラズモン励起

英語表記:surface plasmon excitation

プラズモンは電荷(通常は電子)密度の疎密が固体中を伝播する波やあるいはそれを電子化した波を指すが、表面プラズモンは、固体表面において大きく誘電率が変化するために表面近傍に生じた反電場によって生ずる、表面垂直方向には局在し、表面方向に伝搬する波である。Ritchieが薄膜におけるプラズマ振動励起による電子線のエネルギー損失に対する薄膜境界の影響として理論的に指摘したのが最初の文献とされる。文献によっては、表面プラズモンポラりトンの意味で用いられることもあるが、狭義の意味では横波の電磁波との相互作用を考慮しない、縦波の電場(∇・E=0)のみを伴う素励起を指す。この意味で狭義の表面プラズモンポラリトンの非遅延近似の極限とも解釈される。表面プラズモンを詳細に議論するには、非局所的な誘電関数を必要とするが、波長が十分長い場合、物質は局所的な誘電関数ε(ω)で記述されると近似することができる。この物質が半無限空間を占めており、残りが真空であるとすると、境界面で電場の法線方向の微分がふ連続となるために表面において分解電荷が生じ、表面に平行な方向には実数の歯数を持つが、表面垂直方向には両方とも指数関数的に減衰する、Maxwell方程式の固有モードの解が存在する可能性がある。ただし、一方の領域で電場が境界面に平行な場合(s偏光あるいはTEモード)、電場の連続性からもう一方の領域でも電場は境界面に平行となり、電場に不連続は生じないので、p偏光である必要がある。物質内と真空領域でこのような解を仮定し、境界においてMaxwellの境界条件を用いると、ε(ω)=1-の時、狭義の表面プラズモンが存在することがわかる。これに自由電子気体の誘電関数ε(ω)=1-ωp2/ω2を当てはめてみると、表面プラズモンの振動数ωsp=ωp/  がえられる。一方、ωpは同じ誘電関数を用いた時のバルクのプラズマ振動数を与える。さらに表面プラズモンの分散を詳しく知るためには、バルクプラズモンの場合と同様、非局所的な誘導関数が必要であるが、表面が存在するためにその垂直方向には並進対称性がないので、本質的に非局所的な問題を扱う必要がある。したがって、ジェリウム模型に乱雑位相近似や局所密度汎関数法を適用した計算が行われているのが現状である。その結果として、興味深いのは、表面プラズモンの振動数は伝播方向の波数に比例した補正項を持ち、その係数が複素数でしかも実部が負であることである。虚部の存在は一電子励起との結合により、有限な寿命を持つことを意味する。また、実部が負であることは、波数の増加とともに電場がより局在して、電子密度の低い、したがって、有効プラズマ振動数の低い領域で電子が振動するためと解釈される。この負の分散は実際、高分解能電子エネルギー損失分光法によって波数の小さい領域において確認されている。表面プラズモンはエネルギーと運動量の保存側からわかるように、通常の伝播光とは結合しない。しかし、プリズムに全反射条件で光を入射し、プリズムの底面から出るエバネッセント光を用いると、光の表面平行方向の運動量が大きくなることによって表面プラズモンを励起することが可能になる。このような実験法を減衰全反射法(Attenuated Total Reflection、略してATR法)と呼ぶ。このように表面平行方向の運動量を大きくすることは、表面に周期性を持たせて光に回折を起こさせることによっても可能で、表面にグレーティングを切ることによっても表面プラズモンの励起が起こり、これが表面増強ラマン錯乱、二次高調波発生の増強など、非線形光学過程の増強の原因の一つになっている。さらに最近では走査トンネル顕微鏡を用いた非弾性トンネル過程における発光現象が表面プラズモンからのものであることが注目されている。
前述した表面プラズモンは、誘電関数の単純さから表面に垂直な方向には節を持たない”モノポール表面プラズモン” であったが、より一般的には垂直方向にも節を持つ多重極表面プラズモンも存在する。多重極表面プラズモンは実験的に見る時もモノポール表面プラズモンとくらべて応答強度が小さいが、モノポール表面プラズモンの振動数が波数0の場合の振動数でほとんど決まり、それが表面の詳細によらないのに対し、多重極表面プラズモンの振動数は波数0の場合でも表面電子状態に敏感であることが表面研究において興味深い点で点であろう。


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