半導体用語集
表面相転移
英語表記:surface phase transition
表面におけるラフニング相転移(roughening transition),整合-不整合相転移(commensurate-incommensurate phase transition),整合-整合相転移(commensurate-commensurate phase transition)などを表面相転移と呼ぶ。
表面緩和や表面再構成のない表面において,有限温度で熱力学的に微視的な凹凸が生ずることをラフニングという。基板温度による熱エネルギーが,原子間の結合エネルギーの0.57倍を超えると,熱力学的に表面の凹凸が急激に大きくなりラフニング相転移が起こる。銅や銀などの比較的融点の低い金属表面において400~500度でラフニング相転移が観察され,10数原子層の深さの凹凸が生じる。化合物半導体では,構成元素が2種類以上あり,ラフニング相転移を議論することは簡単でない。たとえば,ヒ化ガリウムGaAsの場合に,ガリウムとヒ素の結合エネルギーから予想されるラフニング相転移温度はかなり高温であるが,ヒ化ガリウム基板を加熱すると380℃付近から蒸気圧の高いヒ素が蒸発して,表面が荒れ,ガリウムの液滴も生じる。しかし,この現象はラフニング相転移とは異なるものである。表面から蒸発するヒ素を十分に補うように,ヒ素蒸気圧下でヒ化ガリウム基板を加熱すると,通常用いられる600℃程度以下でラフニング相転移は観察されない。
整合-不整合相転移では,表面の原子間隔の整数倍または整数の逆数倍では表わせない間隔で吸着原子が配列する構造(不整合構造)が現われるが,化合物半導体では,原子間の結合が共有結合であり,整合-整合相転移が一般に観察される。これは,たとえば,ヒ化ガリウムGaAsにおいて,ヒ素がガリウムより低温で蒸発しやすいため,分子線などにより供給されるヒ素の蒸気圧が低いほど,また,表面温度が高いほど表面でのガリウムの密度が高くなり,表面における元素比に応じて表面構造が変化するためである。すなわち,この場合の整合-整合相転移は,表面温度と表面におけるガリウムとヒ素の比率との関数となる。
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