半導体用語集

量子カオス

英語表記:quantum chaos

 カオスとは、古典力学系で見い出される予測不可能なほど複雑な運動である。カオスでない系の運動が周期的あるいは規則的であるのと対照的であるが、意外にも、自然界の現象のほとんどはカオス的である。典型的な例は、壁でのみ散乱される大きさのない粒子(ビリアード球)の運動である。矩形や円形の境界に閉じ込められた粒子の運動は非カオス的であるが、スタジアム型やシナイ型と呼ばれる閉じ込めの中の運動はカオス的になる。半導体ナノ構造に閉じ込められた電子は、デバイスのサイズより電子の平均自由行程が長い条件を実現することが可能で、前で述べた古典的なビリアード球でみられたカオス的な挙動が顔を出すと考えられる。最近、量子ドットに二つの端子をつけた構造において、円形とスタジアム型の二端子抵抗の間に(量子)カオスに起因するとみられる違いが報告された。電子が二つの端子間を直接通り抜けられない平均自由行程より十分小さいサイズの構造では、ドットに入った電子は端子から出ていくまでに壁による散乱を何度も受ける。ドットの形状によって変化するのは、非常に弱い磁場領域での磁気抵抗のピークである(弱局在ピークと呼ばれる)。円形の閉じ込めの場合は、抵抗は磁場Bに対して線形に変化するが、スタジアム型の場合は、ローレンツ型 1/(1+B²)の変化を示す。量子カオスと呼ばれる理由は、これらの違いが、電子の持つ位相の情報が失われるような高温では、平均自由行程はまだ素子サイズより十分大きくても消えてしまうからである。つまり、電子の量子干渉の効果に系がカオスかどうかの違いが現われたと考えられる。理論的には、この弱局在ピークの違いは、電子の軌道を半古典的に足し上げていくことにより説明されている。また最近、コンダクタンスのゆらぎのスペクトルにも、カオス、非カオスの違いが報告されている。

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