半導体用語集

量子細線伝導

英語表記:quantum wire transport

 金属細線に電流を流すと、オームの法則に従う線形伝導の条件では、細線のコンダクタンスは、細線の長さに反比例して細線の断面積に比例する。金属のフェルミ波長は数オングストロームと非常に小さいため、電子が細線の中に閉じ込められることによる量子力学的な効果はほとんど観測されない。しかし、量子力学的な位相が保たれる距離(位相緩和長と呼ばれる)より細線の長さが短い時は、コンダクタンスの普遍的なゆらぎが観測される。これは、外部磁場を変調させたり、ゲートなどにより電子密度を変化させるとコンダクタンスがe²/ħ (eは電荷素量で、ħはプランクの定数)のオーダでゆらぐ現象で、ゆらぎの大きさが、細線の長さや電子密度などの詳細によらないため「普逼的」であり、電子が波として干渉することに起因している(「電子干渉効果」の項参照)。半導体中では、伝導粒子(電子や正孔)の密度を不純物ドーピングや電極などにより制御できるため、フェルミ波長を細線の閉じ込めの大きさと同程度にすることが可能である(「低次元量子構造」の項参照)。この量子極限の細線の線形伝導は、長さが電子の平均自由行程より長く、位相緩和長より短い場合、抵抗が長さとともに指数関数的に増大する。これは散乱体に反射された電子の波が干渉して強め合うために起こる局在現象に起因している。金属細線では長さが電子の平均自由行程より短いポイントコンタクトと呼ばれる系で、コンダクタンスが長さによらず、断面積と電子密度だけで決まる値になることが知られている。量子極限の半導体細線では、長さが平均自由行程より短くなると、コンダクタンスが g₀=2e²/ħ を単位として量子化される (2は、電子のスピン縮退に起因する→コンダクタンスの量子化)。スプリットゲートにより、電子密度あるいは閉じ込めポテンシャルを制御して、二つ、三つの一次元準位を電子が占有するように調節すると、コンダクタンスが2g₀、3g₀と階段的に増加していく様子が観測される。このコンダクタンスの量子化は、各準位を占有する縮退した電子の担う電流が、電子の速度(フェルミ波数に比例)と電子の状態密度(一次元ではフェルミ波数に反比例)の積となり、一次元ではフェルミ波数によらない一定値となることに起因している。最近では量子極限の細線において、電子間の相互作用によりもたらされる朝永-ラッティンジャー流体(「朝永-ラッティンジャー流体」の項参照)と呼ばれる状態の研究も活発に行われている。

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