半導体用語集
電子スピン共嗚法
英語表記:electron spin resonance
スピンを有する不対電子に磁場を印加すると縮退が解け,エネルギー準位がゼーマン分裂する。その準位間のエネルギー差に等しいマイクロ波を導入すると吸収が共嗚的に生じる。この現象を電子スピン共鳴と呼び,これを用いた構造解析法を電子スピン共嗚法と呼ぶ。不対電子には格子欠陥に束縛された局在電子,金属の伝導電子,半導体中のドナーやアクセプタ,有機物中の遊離基,磁性を持ったイオンなどがある。したがって電子スピン共鳴法は磁性体・半導体・有機物質などを対象とし,化学・物理などの分野で広く用いられている。
半導体結晶では伝導電子やドナー/アクセプタの電子スピン共嗚を測定することにより伝導帯の谷の位置,電子の波動関数の対称性および波動関数の大きさなどを求めることができる。赤外吸収法が基底状態や励起状態のエネルギー準位の情報を与えるのに対して,電子スピン共鳴法は基底状態の詳細な電子情報を提供することのできるのが特徴である。有効質量近似の理論と比較することにより電子状態の高次の性質を明らかにすることができ,半導体物理の進展に大きな役割を果たしてきた。
高エネルギーのイオン線や電子線を半導体に照射すると,空位や割り込み原子が作られ,これらが不純物などと結合して複雑な格子欠陥となる。電子スピン共嗚法は,このようなプロセス途上で発生する格子欠陥の研究に非常に有効である。シリコンを例に取れば空位とV族原子の複合欠陥,空位とⅢ族原子の複合欠陥および空位と酸素原子の複合欠陥などが同定されている。
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