半導体用語集
3Dグラフィックス用LSI
英語表記:LSI for three Dimension graphics
"3DCG(三次元コンピュータグラフィックス)画像を高速に生成するLSIで,3Dグラフィックスアクセラレータとも呼ばれる。3DCGの技術としては,レイトレーシングといった高品質な画像を生成する方法もあるが,この方法では計算量が多く,また浮動小数点演算による複雑な処理を必要とするため専用LSI化が難しい。このため,3DグラフィックスLSIでは,一般にZバッファ法と呼ばれる隠面消去を基本にした方法が用いられ,固定小数点演算を中心とした処理が行われる。なお,この方法では三次元形状をポリゴンで表現し,各ポリゴンごとに描画を行う。Zバッファ法を基本にした処理は大きく2段階に別けられ,前半をジオメトリ処理,後半をレンダリング処理と呼ぶ。一般に3Dグラフィックス用LSIでは,後半のレンダリング処理あるいはその一部の処理を行うが,グラフィックスワークステーションなどでは,このジオメトリ処理を行う専用LSIもよく使われる。ジオメトリ処理では,ポリゴンの各項点ごとに透視変換による座標値の計算や照明計算によるRGB値の計算などが行われ,レンダリング処理ではグーローシェーディングによるポリゴンの描画が行われる。ジオメトリ処理は,浮動小数点演算による加算,乗算の他,除算や平方根演算,べき乗計算などの複雑な演算を必要とし,描画すべきポリゴンの数が増えると扱うポリゴンデータも大量になる。このため,ジオメトリ専用のLSIでは,複数の浮動小数点演算器の他,除算などの専用演算器,キャッシュメモリ,高速な内部バスを搭載し,ファームウェアで制御する構成になる。また,CPUの負荷を軽減させるためのDMA機能の搭載や,全体のパイプライン処理がスムーズに流れるように,CPUレンダリング専用LSIの入出力ポートを別にし,さらにバッフアメモリを搭載するなどの工夫がされている。一方,レンダリング処理は,ポリゴンの各項点のデータから画像を構成するピクセルへのラスタ化処理が行われ,その後各ピクセルごとにテクスチャマッピング,Zバッファ処理,αプレンディングなどの処理がパイプラインで実行される。テクスチャマッピング用のテクスチャパッファ,Zバッファ処理用のZバッファ,描画用のFRB(フレームバッファ)はそれぞれ2~8MB以上を必要とするため,通常レンダリング専用のLSIにはこれらのバッファが外づけで接続される。ラスタ化の処理では,ポリゴン項点におけるRGBなどの項点値から線形補間により,その内部の画素位置での画素値が計算される。通常は,ポリゴンを三角形に分割して各辺の傾きやライン方向の傾きなどのデルタ値を求め,このデルタ値を項点値に順次加算して行くといった処理が行われる。デルタ値を求める処理では,除算や乗算が多く使われるため,この部分の回路は複数の乗除算器をシーケンサで制御するような構成になる。ラスタ化の処理が終わるとテクスチャマッピングが行われる。テクスチャマッピングの処理では,各画素ごとにラスタ化で求まったテクスチャアドレスから,そのアドレスに対応するテクスチャ画像の一部を読み込む。ポイントサンプリングではテクスチャアドレスの近傍の1画素をバイリニア補問では近傍の4画素を読み込んで内挿処理する。そして,ラスタ化で求まったRGB値とテクスチャ画像のRGB値とをブレンドすることで,テクスチャマッピングが実行される。テクスチャマッピングが終わるとZバッファ処理が行われる。Zバッファ処理では,Zバッファに格納されているZ値とラスタ化で新しく求まったZ値とを比較し,その結果で新しく求まった値ZとRGB値をZバッフアとFRBに書き込むか否かを判定する。ただし,αプレンディングをする時は,FRB中のRGB値をいったん読み込み,これに新たに書き込むべきRGB値を混合比に応してブレンドして,再びFRBに書き込むリード・モディファイ・ライト処理が行われる。
最近の大部分の3DグラフィックスLSIには,前述したレンダリング処理のすべてが搭載されている。レンダリング処理では演算精度をそれほど必要としないため,演算器を多数搭載しても規模への影響はあまりない。このため,レンダリング処理における現在の性能ポトルネックは演算ではなく,データ転送になっている。高性能なレンダリングLSIでは,このメモリポトルネックを緩和させるために,テクスチャバッファ,Zバッファ,FRBをそれぞれ独立のメモリチップで構成し,さらに独立のバスで接続している。さらに最近では,メモリ混載LSIによって,よりレンダリング性能を向上させようという動きもある。また,一方では,レンダリング機能をメインメモリのコントローラに埋め込み,メインメモリをFRBなどでも利用することで,システムコストを低減させようという動きもある。このように3DグラフィックスLSIは,新しい要素を取り込んでグラフィックス性能,機能を向上させて行く方向と,他の要素に取り込まれて低コスト化して行く方向に分かれつつある。"
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