半導体用語集

D/A 変換器

英語表記:D/A converter

 デジタル表現された信号をアナログ信号に変換する回路。内部にアナログ量を作る回路が必要となる。この回路を抵抗で作るか,コンデンサで作るか,定電流源で作るかの選択がある。また,バイナリ表現された2進数のビットに対応した量を直接作るか最小分解能である1LSB(Least Significant Bit)ごとに作るか,その組み合わせにするかによっていろいろな構成がある。
 D/A変換器の仕様には表1に示すように動特性,静特性ともに様々ある。デジタル量を表現するアナログ量を作る時に誤差が避けられないため,デジタル表現に対応した理想的な値を実現することは不可能である。必要以上に理想に近い値を仕様として設定すると,面積の増加,消費電流の増大を招く。単体のD/A変換器の場合には,ランクづけ選別で販売することができるが,大規模集積回路では仕様に合わないものは不良品とみなされるため、設計は単体より困難となることが多い。目的に応じて仕様を緩和することで,コストに見合った設計が可能となる。
 出力コンプライアンス電圧:電流出力DAC特有の規格で,出力端子にバイアス電圧を印加した時,電流が1LSB変化する上限もしくは下限の電圧。抵抗や電流電圧変換器を用いて電圧に変換する時,出力電圧範囲を設計するうえでのパラメータとなる。
 有効ビット数:最大振幅の正弦波を再生した時えられる信号対雑音比が何ビットの理想D/A変換器と同等であるかを示す。ENOB=(S/N-l.8)+6.02で換算する。
 単調性:入力データを大きくしていった時,出力が必ず単調に増加することを保証する。制御装置では,単調性が保証されないとシステムが不安定となることがあるため,特記される。
 スプリアスフリーダイナミックレンジ:正弦波を再生した時,信号成分のスペクトルと最も大きい雑音のスペクトルとの強度比。
 混変調歪:二つの周波数の正弦波を合成した信号を再生した時,D/A変換器の非線形性のために生じる二つの周波数の和と差の周波数成分のうち大きい方と信号スペクトルの強度比。
 微分利得,微分位相:ビデオ信号特有の規格で,カラーテスト信号を再生した時,カラーサブキャリア信号が平均出力電圧の変化により振幅が増減する割合を微分利得,位相変化を微分位相と呼ぷ。それぞれ3%,3度内にあれば,カラー信号を再生した時画質の劣化は無視できるとされている。
 グリッチエネルギー:グラフィック出力用のD/A変換器特有の規格で,1LSBだけ違うデータをD/A変換した時,過渡状態で生じるオーパシュートとアンダシュートの電圧をそれぞれ時間積分してその差を表わしたもの。1LSBの電圧⊿をサンプリング周期Tの間で出力すると,⊿×Tの出力となる。もしグリッチエネルギーがこの値より大きければ出力に明らかな誤差を生じていることになる。
 たとえば,オーディオ信号のように等時間間隔でサンプリングされた信号をD/A変換器によりアナログ信号に戻す時,出力される波形は,おのおののサンプリング周期にわたってデジタル量に対応した一定電圧を保持する階段状の波形であり,通常のアナログ信号とは異なる。この階段状の波形は,デジタル表現がサンプリング周波数の半分であるナイキスト周波数に対してスペクトルが繰り返される性質を持っているため,D/A変換した時にその影響を残し,高い周波数に折り返された成分が存在するために生じる。この信号はイメージ信号またはスプリアス信号と呼ばれ,雑音の1種にあげられる。この雑音を除くため,D/A変換した後にはナイキスト周波数以上を減衰させるフィルタが必要となる。
 D/A変換器でアナログ信号に変換した時,信号は忠実に再生されるわけではない。振幅の周波数特性は再生周波数をω,サンプリング周期をTとすると,sin(ωT)/(ωT)で表わされる。したがって,再生された信号はナイキスト周波数付近でいくらか減衰するため,平坦な周波数特性を実現するためにはフィルクにこの減衰を補償する特性を持たせるか,サンプリング周波数をこの減衰分が無視できる周波数に設定する必要がある。


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