半導体用語集

X線吸収端微細構造(XANES)

英語表記:X-ray Absorption Near-Edge Structure (XANES)

 X線吸収微細構造(XAFS)のうち,吸収端から約50eV以下のスペクトル構造のことをいう。英語ではNEXAFS(Near-Edge X-ray Absorption Fine Structure)とも称する。この構造はX線吸収原子の内殻電子が空準位に励起されることにより生じる。空準位はイオン化しきい値以下では離散的であり,一電子的束縛空準位への遷移として通常理解でき,イオン化しきい値以上では連続的であり,放出された光電子の周りの原子による多重散乱過程として解釈される。他の吸収スペクトルと同様に双極子遷移が支配的であるが,双極子遷移と重ならないエネルギー領域では電気四極子遷移が観測されることもある。
 たとえば,Br₂気体分子のBr-K吸収端XANESは,ちょうど吸収端当たりのエネルギーでBrIs内殻から最低空準位であるBr₄pσ⋆軌道への一電子的遷移が現われ,続いて隣のBr原子との多重散乱による構造が観測される。また,遷移金属錯体のK吸収端XANESでは,吸収端前に金属Is内殻から金属d軌道への弱い電気四極子遷移が生じ,さらに配位子の軌道への電荷移動的双極子遷移が続く。それ以降は光電子の錯体内の原子による多重散乱構造を与える。Fermi準位以下に束縛空準位がない一般の固体においては,吸収端前には構造がなく,初めから連続状態であり,多重散乱による構造として理解できる。
 XANESでえられる空準位の情報には注意が必要である。単純には空準位の部分状態密度(K吸収端ならp状態密度)を反映すると考えられるが,実際には内殻に空孔が生じることにより価電子が再配列を起こし,必ずしも基底状態の空準位密度に対するとは限らない。XANESで観測される束縛状態ないしは準束縛状態を電子状態理論計算から再現しようとする場合はこの点に注意が肝要である。また連続状態を記述する場合でも.基底状態の部分状態密度をバンド計算から求めるよりも,吸収原子から放出された光電子が周囲の原子により多重散乱を受け,その影響が吸収係数に反映されるという局所構造的描像の方が一般的である。ただし,多頂散乱理諭においても,光電子の運動エネルギーが小さいXANES領域では散乱ポテンシャルの計算が大変困難であり,実験と理論を定量的に一致させるのは容易なことではない。
 XANESの理論は非常に複雑であるため,局所構造を反映してはいるものの,スペクトルから局所構造を定量的に決定するのは通常行われない。応用的にはむしろスペクトルを指紋的に用いることが普通である。XANESは局所構造や電子状態の変化に対してきわめて敏感であるので, よくわかった物質のXANESを対象物質のものと比較することで,定性的・半定量的に対象物質の化学状態を推定・同定できることが多い。
 配向のある試料に対しては,直線偏光した入射X線を偏光させると,X線の電場ベクトルに対する励起準位の幾何的方向がわかり,固体物性に対して有用な知見となる。空準位の励起準位の性格が帰属できていれば,吸収原子周辺の原子団の配向もわかるので,これは表面XANESによく応用されている。理論と対応づけを行いたい場合も偏光依存測定により詳細な比較が可能である。
 一方,円偏光を用いると,いわゆる光学活性体や磁性体に関して円二色性が観測される。前者はX線領域において非常に弱く,観測例がやっと報告されたにすぎない。後者はX線磁気円二色性(X-ray Magnetic Circular Dichroism: XMCD)として広く応用されている。対象はスピンを有する強磁性,フェリ磁性,常磁性体に限られるが,遷移金属元素のL吸収端スペクトルからは吸収原子のd準位のスピン・軌道磁気モーメントに関する情報がえられる。元素毎のスピン・軌道磁気モーメントが別々にえられる点でユニークな磁性研究手段である。


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