半導体用語集

エレクトロマイグレーション(EM)

英語表記:Electro-Migration

電子流との相互作用によって不純物イオン、金属原子、格子欠陥などが連動量を受け取り移動する現象であり、拡散現象と相まって起こる。EMの現象論はHuntingtonとGroneにより1961年に確立された。彼らは金における自己エレクトロマイグレーションを研究し、実験結果に基づいてドリフト速度および電子風力の定式化を行った。一般に金属格子中におけるイオン化不純物原子は遮蔽ポテンシャルを介して自由電子と相互作用を行う。また自己拡散においても、まさに隣の空孔サイトに飛び移ろうとする時の原子は、同様に自由電子と相互作用を持ち、直接的な力を受け取る。Huntingtonらの現象論では、この力を電子風力(electron wind force)と呼んだ。拡散するイオン化不純物原子が受ける力Fは、電子風力と静電気力との和であり、有効荷電数Z*を用いて、F = Z*eEと表わされる。Eは電場強度であり、eは素電荷である。またドリフト速度Vd(原子の平均移動速度)は、 Vd=Z*eE・D/KTで表わせられる。ここで、Dは拡散係数、kはポルツマン定数、Tは絶対温度である。これは一様な外力の下での拡散運動を示すアインシュタインの関係式に他ならない。実験よりZ*は多くの金属で負の値を示し、電子流と同じ方向に原子が移動することが示されている。 すなわち、多くの金属においては電子風力が静電気力よりも数倍から 10数倍程度大きい。
LSIのAl配線においては、エレクトロマイグレーションによる信頼性不良はボイド成長による断線、およびヒロックやホイスカ成長によるショートのいずれかである。平均寿命評価式には、Blackの式、MTF=AJ-n exp (Ea/kT)が一般に用いられている。ここでMTFは平均寿命 (Median Time for Failure)の略語であり、Aは定数、Jは電流密度、nは指数、Eaは活性化エネルギーである。 Blackの式はまったくの経験式であり物理的根拠があいまいであるが、多くの実験結果がこれによくフィッ トすることが知られている。 経験的には指数nが2前後の値を取る場合が多い。 活性化エネルギーは主要な原子拡散メカニズムに依存するものと考えられており、一般に粒界拡散支配では0.5~ 0.8eV程度、また格子拡散が支配すると考えられるバンブー構造配線では1.0~1.2 eV程度となる。 エレクトロマイグレーションのより進んだ理解は1975年頃にBlechやKinsbornらによるエッジ移動現象の観察と定式化によりなしとげられた。彼らはある長さLのAlパターンをTiN上に形成し、直流電流を加えてAlパターンの構造変化を観察した。構造変化には電流密度が臨界電流密度Jc以上である必要があり、 Jc以上では陰極側のAlパターンエッジが陽極側へと移動を起こし、また陽極側エッジではヒロックが形成されることが見い出された。陰極側エッジの移動速度からドリフト速度を求めることが可能であるが、信頼性の観点からはこのエッジ移動そのものが不良の原因である。一連の実験からJcとの積Jc・Lがほば一定値であることが示された。また電流密度がJc以下では原子の密度勾配に起因する応力勾配が形成され、この応力勾配による力とEMによる力とが均衡を保っていると考えられる。この考えを実際の長い多結晶配線に適用して、ある電流密度条件下では「有効Blech長」 が存在し、それの大小を持って配線の信頼度の比較を論じることも行われている。


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