半導体用語集
ケイ素(シリコン)
英語表記:silicon
ケイ素は最もよく用いられている半導体材料である。通常シリコンと呼ばれている。結晶(単結晶または多結晶),または,非晶質(アモルファス)のどちらの形態でも利用される。シリコン結晶は立方晶のダイヤモンド構造をとり,灰色で研磨面は金属光沢を示す。分子量は28.08,格子定数は0.54307nm,単位胞には8原子が含まれ,密度は2.30g/cm³である。融点は1,414℃,室温での熱膨張係数は4.2×10⁻⁶deg⁻¹である。また,比誘電率は12である。
シリコンは間接半導体で,バンドギャップは室温で1.03eV,液体へリウム温度(4.2K)で1.1eVである。間接遷移型バンドギャップを持つので,吸収端直上の1.1~1.4eVの光子エネルギーでは吸収係数は10³cm⁻¹以下と小さい。したがって,太陽電池に使う単結晶シリコンは少なくとも10⁻³cm=10μmの厚みが必要である。吸収端は間接遷移であるが,可視光付近のエネルギーでは直接遷移が起きている。バンド構造によるとk⁻空間のΓ-X,Γ-L方向に価電子帯と伝導帯の結合状態密度が高いため,3.5eV付近にE₁,4.5 eV付近にE₂と名づけられた反射スペクトルのピークを持つ。強い光学遷移の存在のため屈折率は3.5程度と大きな値を持ちこれがシリコンの金属光沢の原因となっている。
不純物密度の低い真性半導体は,極低温で電気的には絶縁性を示す。温度を上昇するとバンドギャップの1/2の活性化エネルギーを持ってキャリアの増大をみる。微量のリン(P)などのⅤ属原子でSi原子を置換すると電子が供給されn型半導体となる。この時Pは電子供給体という意味でドナーと呼ばれる。一方,微量のアルミウム(Al)などⅢb属の原子でSi原子を置換すると正孔(ホール)が供給され,p型半導体になる。この場合添加したAlは電子の受容体という意味でアクセプタと呼ばれる。室温における電子移動度は1,500cm²V⁻¹s⁻¹,正孔移動度は450cm²V⁻¹s⁻¹である。
シリコンのバルク単結晶は,浮遊溶融帯法(Floatmg Zone:FZ)およびチョクラルスキー法(Czochralski:CZ)を使って作製される。FZ法⋆では,きわめて純度の高い結晶をえるごとができる。一方,CZ法⁑では非常に大きな直径の単結晶を引き上げることができる。最大で12インチ(30cm)のウェハが入手可能である。高純度なので微量の不純物のドーピングにより,伝導型,キャリア密度などを思いのままに制御できる。
シリコンはpn接合の作製が容易であり,現在ではダイオード,バイポーラトランジスタなどほとんどの半導体デバイスにシリコンが使われている。また,シリコンは非常に酸化しやすく,空気中に放置された場合ほとんどの場合薄い絶縁性酸化物に覆われている。逆にいえば天然に存在する安定な二酸化ケイ素Si0₂を絶縁物として利用できるので,MOS(金属酸化物半導体)構造を容易に作製できる。現在のコンピュータ技術は,シリコン基板上にすべての電子回路を作り込んだ集積回路が基礎となっているが,これはシリコンをベースとして,抵抗,キャパシタ,ダイオード,バイポーラトランジスタ,MOS型電界効果トランジスタなどのあらゆる部品が作れることが前提となっている。高密度化に伴い,リソグラフィと呼ばれる微細加工技術が進展した。さらに高度な細線配線技術が必要とされ,従来の金属配線における問題を解決するため,電極・配線材料として安定なシリサイド結晶の利用が検討されている。
従来,シリコンは間接遷移型吸収端を持つため発光効率が悪く,しかもバンドギャップが赤外部にあるため,可視発光が期待できなかった。しかし,最近,シリコンを微細化することによって,量子閉じこめ効果を利用した可視光発光デバイス作製の可能性が出てきた。特に,陽極酸化により多孔質シリコンを作製する試みが行われ,赤・緑・青の発光が観測されている。
⋆ FZ法(Floating Zone method;浮遊融帯成長法);柱状に成形した多結晶試料を高周波加熱によって部分的に融解し,徐々に移動していくことによって結晶化を行う。この方法では融解部分(メルト)は容器に触れないため汚染が少ない。さらに不純物の偏析のため固化の際に不純物を融液中に排斥できるので,きわめて純度の高い結晶をえることガできる。
⁑ CZ法(Czochralski method;チョクラルスキー法);溶融石英や炭素製のるつぼ内に置かれた融液(メルト)に種結晶を浸漬,回転しながら引き上げていく結晶成長法で,「引き上げ法」とも呼ばれる。この方法は不純物を取り込みやすいが,種結晶から大口径への移行期間の技術的展開により,転位の伝播を防ぎ無転位の結晶を作ることができる。
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