半導体用語集

ドナーキラー処理

英語表記:donor killer treatment

LSIを製造するうえで基板となるシリコンウェハのタイプと比抵抗は、作成されたLSIが正しく機能し所定の性能を発揮するかどうかに大きく影響する重要なパラメータである。そこで、シリコン結晶は比抵抗を制御するために不純物、p型の場合にはホウ素(B)、n型の場合にはリン(P), アンチモン(SB)またはヒ素(As)が意図的に添加され、その量で狙った比抵抗になるように調整される。一方、LSI 用の基板として多く用いられているCZ(チョクラルスキー)法で作成されたシリコン結品には、その製法からるつぼに含まれている酸素が必然的にある程度の量溶け込んでいる。ところで、このシリコン中の酸素の一部は、シリコン結晶が育成されてから室温まで冷却されてゆく過程で不安定な錯体を形成するが、この酸素錯体(酸素とシリコンの複合錯体も含む)はシリコン結晶中ではn型のドーパントとして働いてしまう。この結果として、育成され室温に冷却されたシリコン結品およびそこから切り出されたシリコンウェハの測定される比抵抗は, そのままでは意図的に添加したドーパント不純物の他に、酸素錯体を合わせた濃度に対応する値になってしまう。 この高温からの冷却過程で形成されたn型ドーバンドとして働いてしまう酸素錯体のことを、酸素ドナーあるいはサーマル(熱的)ドナーと呼ぶ(n型のドーパント不純物は一般的にドナー 不純物と呼ぶ)。
この結果として、そのままでは育成 されたシリコン結品の比抵抗が狙ったとおりの値になっているかどうかがわからないことになる。しかしながら、 この酸素錯体のほとんどは不安定なも のであり,650°C以上の熱処理で容易に分解してドーパントとしての能力を 失ってしまう。そこで、シリコンウェ ハの製造においてはその工程中に酸素ドナー錯体を分解するような熱処理を行い,意図的に添加したドーパント不 純物で決定される本来の比抵抗に戻してやる処理を行う。この処理のことをドナーキラー(donor killer)処理あるいはドナー消去(熱)処理といい、650~700°C程度で数10分のアニールを行うことが多い。
ところで、この酸素ドナー錯体は1種類ではない。一般に酸素ドナーあるいはサーマルドナーという場合には、300~500°C程度の温度領域で生成し、650°C程度以上の温度で短時間で分解 してしまうものを指すが、この他にもう少し上の温度で生成し、消去(分解)には1、150°C以上の温度が必要なものもある。これは1950年代から知られていた従来のサーマルドナーにくらべてずっと以降の1970年代後半の研究により発見されたもので、ニュードナーと呼ばれている。ニュードナーの生成温度領域は通常のドナーキラー処理の温度領域と重なっているため現象論的には少々複雑である。現在のウェハ特性の要求仕様に対して通常のシリコンウェハの製造条件ではこのニュードナーが深刻な影響を与えることはあまりないが、ニュードナーの影響を避けるためにドナー消去熱処理にRTA(Rapid Thermal Anneal)という高速短時間熱処理の処理技術を適用する例もある。
この酸素ドナー(ニュードナーも含む)を消去するような熱処理の温度領域は、BMDと呼ばれる酸素析出物(実際は酸素とシリコンの化合物の析出)を形成する温度領域と重なっている。加えて、酸素ドナー自体が酸素およびシリコンによる錯体であるので、いわばBMDの卵といってもよいものである。このため、ドナー消去熱処理は酸素ドナーを分解すると同時に、シリコン結品中のBMDの析出にも影響を及ぼすものであり、ドナーキラー処 理のプロセス条件の設定にはBMD析出やDZ層形成に与える影響をも考慮する必要がある。同様に、酸素析出に影響を及ぼすような要因は酸素ドナーの形成にも影響する点も忘れてはならない。
ところで、ドナーキラーという表現はいわゆる和製英語であり、欧米人にドナー消去処理を指してdonor killer treatment といっても通じない。英語では donor annihilation(ドナーアナイヒレイション) anneal という。


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