半導体用語集
ナローギャップ半導体
英語表記:narrow gap semiconductor, narrow bandgap semiconductor
ナローギャップ半導体,ワイドギャップ半導体という言葉は,禁止帯幅が,狭い,あるいは広いことを表わすものであるが,相対的なもので,明確な境界が定義されているわけではな
い。閃亜鉛鉱構造を有するⅢ-Ⅴ化合物半導体の禁止帯幅は,InSbの0.17eVからAlPの2.45eVまての領域を連続的にカバーするが,これらの半導体は,早くから研究が進められ,比較
的容易に価電子制御が実現されたた
め,これらの材料で実現できないその下限近傍以下の禁止帯幅の領域をナローギャップ,上端近傍以上の領域をワイドギャップと呼ぶことが多い。ナローギャップ半導体は,赤外光の光源として,またその検出用として重要で,特にHgxCd₁₋xTeなどのⅡ-Ⅵ族半導体とPb₁₋xSnxTeなどのⅣ-Ⅵ族半導体が,応用上重要となっている。いずれも混晶組成により禁止帯幅がゼロの半金属となる組成を含む,特徴あるバンド構造を有するので,以下で簡単にその特徴を述べる。
閃亜鉛鉱構造を有する半導体では,通常,伝導帯の下端は,s軌道から構成され,Γ₆の対称性を,また価電子帯上端は,p軌道から構成され,Γ₈の対称性を有している。CdTeは,このような通常のバンド構造を有しているが,HgTeとの擬二元系であるHgxCd₁₋xTeでは,xの増加とともに伝導帯下端のΓ₆の点は,価電子帯上端のΓ₈の点に近づき,x≈0.84で遂に両者は重なる。x>0.84では,両者の関係は反転して,Eg=E(Γ₆)-E(Γ₈)が,負となる特異なバンド構造を持つ半金属となる。HgSeとHgSも同様に“反転した”バンド構造を有する半金属である。通常のバンド構造を有するCdTeと“反転した”バンド構造を有するHgTeにより形成されるヘテロ接合は,Type Ⅲと呼ばれることもあり,両者から構成される超格子は,興味深い研究対象となっている。また,HgxCd₁₋xTeは,赤外光の検出器としての応用が重要であり,2~30
μmの波長領域の素子が実用化されている。5μm以下の波長域では,pn接合を用いた光起電力タイプが,それより長波長側では,光伝導型の素子が用いられている。また,二次元画像検出用のCCD素子も作製されている。
一方,Ⅳ-Ⅵ族半導体のPbTeは,NaCl構造を有する直接遷移型半導体であるが,価電子帯の最大と伝導帯の最小がいずれもL点にある特異なバンド構造を持つ。伝導帯の下端は,Pbのs軌道とTeのdおよびs軌道により構成されL₆⁻の対称性を有し,また価電子帯上端は,Pbのs軌道とTeのp軌道から構成されL₆⁺の対称性を有する。一方,SnTeとの擬二元系のPb₁₋xSnxTeでは,xの増大とともに伝導帯下端のL₆⁻は,価電子帯上端のL₆⁺に近づき,x=0.3の近傍で両者は一致し,禁止帯は消失する。さらにSnTe濃度の高い領域では,バンドは逆転して,L₆⁺が伝導帯下端に,L₆⁻が価電子帯上端を形成するようになる。このバンドの交差によるバンドの混合により,SnTe側の領域では,価電子帯の最大は,L点に近い点に移る。大半の半導体では,温度上昇とともに禁止帯幅は減少するが,PbTeなどのⅣ-Ⅵ族半導体では,温度上昇とともに禁止帯幅が増大する逆の依存性を示す。また,他の半導体とくらべ非常に大きい誘電率を持つことも特徴的で,クーロンポテンシャルの遮蔽により,低温で高い移動度が観測される。PbTe,PbSe,PbSは,いずれも光伝導型の赤外光検出器として長く使われてきている。また,1970年代から1980年前半までには,半導体レーザへの応用も活発に検討され,連続発振も実現されている。
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