半導体用語集
バリスティック伝導
英語表記:ballistic transport
通常半導体中のキャリアの伝導特性は、不純物との散乱の繰り返しにより決定されているが、非常に高純度のヘテロ構造やきわめて小さい構造を作成すると、キャリアは不純物による散乱なしに、あたかもピストルの弾や光波のように構造を直進することになる。このような伝導をバリスティック伝導と呼ぶ。バリスティック伝導は距離が短ければ室温でも起こり、ヘテロ構造の層に垂直方向の伝導に現われる(「ホットエレクトロン」の項参照)が、興味深い特性は高品質ヘテロ構造の層に水平方向の伝導特性である。電子が散乱を受けずに進める距離、平均自由行程は、2DEG(二次元電子ガス)では電子の移動度とフェルミエネルギー(電子密度に比例)の平方根に比例し、たとえば移動度が1×10⁷cm/V·s、電子密度約3×10¹¹cm⁻²の高品質2DEGの場合には約100µmになる。バリスティック伝導の一つの特徴は電子の直進性であり、平均自由行程より小さい細線の交差点では、電子がコーナーを曲がれずに直進するため、零磁場近傍で負の曲がり抵抗や、ホール電圧の消滅が生じる。磁場を加えて電子のサイクロトロン直径が細線幅に等しくなると、電子は磁場によりコーナーを曲がるためこの効果は消滅する。また、スタジアム楕円形状のように直進し、壁で反射された電子の軌道が何回反射されても決してもとの軌道と重ならないような場合には、カオス的な特性がえられている(「量子力オス」の項参照)。バリスティック電子の直進性に基づく現象は散乱を考えなくてよいので、様々な角度で電子を打ち込む簡単なシミュレーションでよく説明される。もう一つのバリスティック伝導の特徴は、散乱の影響がないので、伝導特性がガラス導波路を伝わる光波のように、構造の壁による境界条件にのみ依存する点である。バリスティックな微細な構造の伝導特性は、構造中の電子波のモードを考えることによりよく説明することができ、その代表的な例がバリスティック細線の量子化コンダクタンス(「量子化コンダクタンス」の項参照)である。
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