半導体用語集

低次元量子構造

英語表記:low-dimensional quantum structure

 半導体中のキャリアの状態密度ρ(E)はパラボリックな有効質量近似では、三次元系についてはρ(E)dE∝E^1/2 dEでエネルギーに対し連続的に増大する。一方、z方向のキャリアの運動の自由度をなくし、x、y方向にのみ自由に動けるキャリアを形成すると、この状態密度はρ(E)∝dEとなり、z方向に閉じ込められた各サブバンドは、エネルギーによらず一定の状態密度を持つようになる。このような状況はz方向の厚みが電子の波長と同程度のオーダになった時に実現される。このような状況を二次元系と呼び、半導体量子井戸構造、SiO₂/Siや化合物半導体ヘテロ界面の反転層、蓄積層などで実現されている。z方向の閉じ込めによるサブバンドはz方向の閉じ込めによる電子の定在波の形成で説明できる。最近では膜厚方向には 原子層オーダの制御が可能であり、室温まで二次元量子効果の出現する系を容易に作成することができる。実際に二次元半導体量子構造はSiO₂/SiMOS FET、AlGaAs/GaAs HEMT、量子井戸レーザなど、多くの半導体デバイスに用いられており、現在の半導体デバイスの主流を形成している。また、これら二次元量子構造は整数、分数量子ホール効果(量子ホール効果、分数量子ホール効果の項参照)などの半導体物性研究の舞台にもなっている。z方向の閉じ込めに加え、さらにy方向のキャリアの運動の自由度を制限すると一次元量子構造が実現される。一次元量子構造の状態密度はρ(E)∝E^-1/2 dEとなり、状態密度がエネルギー準位に集中してくる。この一次元量子構造は量子細線(「量子細線」の項参照)とも呼ばれ、二次元電子系を電子ビームリソグラフィ技術を用い細線構造にしたり、結晶表面のステップ構造を用いるような特殊な結晶成長により実現されている。一次元系に特徴的な特性としてバリスティック量子細線におけるコンダクタンスの量子化(「コンダクタンスの量子化」の項参照)や、朝永-ラッティンジャー流体(「朝永-ラッティンジャ一流体」の項参照)の特性が報告されている。さらに閉じ込めをx方向にも施しキャリアの運動の自由度が三次元的に制限された構造を零次元量子構造という。零次元状態ではρ(E)はデルタ関数となり、各零次元準位に電子が2個づつ(スピン縮退していない時は一つづつ)入ることになる。零次元構造(または量子箱構造、量子ドット構造→量子ドット)は電子ビームリソグラフィなどを駆使して作成される他、結晶成長時の自己組織化を利用した手法も盛んに研究されている(「自己組織化量子ドット」の項参照)。零次元構造に特徴的な振る舞いとして、零次元準位のスペクトロスコピィがトンネル電流特性や電圧-容量特性から測定されている他、デルタ関数的な状態密度を反映した量子ドットレーザにおける高い特性温度、零次元励起子の振る舞いなどが報告されている。なお、零次元構造は微小な構造であり、その容量も小さいため、量子効果ではなく古典的な効果であるが、クーロンブロッケード(「クーロンブロッケード」の項参照)に基づく単一電子トンネルが特性に大きな影響を与え、たとえばトンネル特性については零次元量子化はその変調として現われる。一次元、零次元構造の作成は原子オーダで制御可能なz方向(膜厚方向)と異なり、制御が難しいx、y方向の閉じ込めが必要なため、一次元、零次元量子効果に基づくきれいな特性をえるためには、なお低温の測定が必要なケースが多い。しかし、最近のプロセス技術、結晶成長技術の進歩により、室温付近までこれらの特性が観測されるようになってきており、これらの低次元量子構造がデバイスに使われる日も近いと思われる。

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