半導体用語集
原子間力顕微鏡(AFM)
英語表記:AFM: Atomic Force Microscope
AFMは走査型トンネル顕微鏡(STM: Scanning Tunneling Microscope)の発明者であるBinnigらによって1986年に発明された。AFMはトンネル電流の代わりに試料,プローブ間に働く原子間力(引力または斥カ)を検出し,これが一定になるようにプローブを上下させながら試料表面を走査する。原子間力の検出には図1に示すようなカンチレバーと呼ばれる微小なばねを用いる。このばねは半導体プロセスを用いてSiウェハ上にプローブと一体に形成する。このばねの変位の検出には図2のAFMの原理図に示すような光テコを用いるのが一般的になっている。AFMの動作モードには接触モード(斥力検出),非接触モード(引力検出),間欠接触モード(斥力検出)の3種類がある。接触モードは高い分解能がえられる反面,試料表面に損傷を与える危険性がある。非接触モードはプローブ,試料間を数nm離すため試料に損傷を与えないが,横分解能は劣る。間欠接触モードは試料に与える損傷が接触モードにくらべて少なく,また,接触モードに近い分解能がえられる。これらの測定モードは試料の性質やえたい情報によって使い分けられる。
AFMの特徴としては,
(1)絶縁物の測定が高分解能でできる。
AFMの最大の特徴は,STMでは不可能であった絶縁物の測定が高分解能でできる点である。表面形状を観察する場合,最高で垂直方向0.01nm,水平方向0.3nm程度の分解能がえられる。
(2)測定環境の自由度が大きい。
STMと同様,大気中,真空中,ガス中,液中などの多様な環境で動作可能である。測定環境はどんな試料のどんな状態を測定したいかで決めればよい。大多数の試料は大気中で測定すれば十分なため,高い分解能にもかかわらず測定が容易であるというメリットを享受できる。液中で測定できるという特徴を活かした応用としては,電気化学反応のその場観察があげられる。試料台を電気化学セルで構成し,この中で試料に電気化学反応を与えながら表面のその場観察を行うという手法である。これにより金属の腐食過程,電解析出過程,貴金属電極表面構造,半導体/溶液表面構造の観察が可能となっている。また,生物試料を生きたままの状態で観察したいというニーズからも液中測定は期待されている。SiやGaAsのように,大気中におくと瞬時に酸素や水分と結合してしまう試料の真性表面の観察は超高真空チャンバ内で行う。
(3)形状と物性の同時測定が可能
摩擦力,磁気力,電気力,試料にカを加えた時に硬さや粘性を反映する応力などはプローブに働く力として検出できる。したがって形状測定のための力検出と同時,または交互に物性測定のための力検出を行うことにより,形状像と物性像を同時に取り込むことができる。すなわち形状情報に対応した物性情報をえることができるわけで,これにより局所の性質を詳細に評価することが可能となる。これらの機能はAFM装置に付加された機能ではあるが,磁気力を検出するものをMFM(Magnetic Force Microscope),摩擦力を検出するものをFFM(Friction Force Microscope),試料表面の電位分布を検出するものをSMM(Scanning Maxwell Stress Microscope),KFM(Kelvin Probe Force Microscope),試料表面の粘弾性分布を測定するものをVE-AFM(Viscoelasticity AFM),近視野光を検出するものをNSOM(Near-field Scanning Optical Microscope)などと呼んでいる。さらに,STM,AFMおよびこれらを総称して,走査型プローブ顕微鏡(SPM: Scanning Probe Microscope)と呼ぶのが一般的になっている。
応用としては,
(1)あらゆる物質表面の微細形状観察。
(2)Siウェハ,光学部品などの超精密加工表面の粗さ測定。
(3)電子デバイス,光学デバイスの形状測定。
(4)形状と摩擦力,磁気力,粘弾性,電気力などの物理的性質の同時観察。
などがある。
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