半導体用語集
表面散乱
英語表記:surface scattering
MOS電界効果型トランジスタ(MOSFET:Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)において,ドレイン・ソース間のp型半導体の表面(酸化層との界面)付近では,表面に垂直方向に印加された正方向のゲート電圧の電界効果により,伝導帯の底が表面付近でフェルミ準位と交差して,反転層が形成される。この時,反転層内を表面に平行に移動するキャリアの移動度を特に表面移動度と呼ぶ。表面移動度は,バルク結晶と同様に格子振動や不純物イオンによる散乱の影響を受けるが,表面の凹凸や表面(酸化層との界面)に存在する様々な欠陥による散乱(表面散乱)の影響も受ける。
表面における電子の散乱は,薄膜金属の電気抵抗と関連して論じられていたが,電子を粒子とみなして表面の凹凸により散乱されると考えることができる。表面が平坦であると鏡面散乱をうけ,凹凸が著しい時には乱反射的な散乱を受ける。MOS構造のように,電子が反転層によるチャネルを通過する場合は,表面移動度は電界が増加すると単調に現象する。これは,電界が増加することにより電子がより表面付近に局在するようになり,表面の凹凸の影響をより受けるようになるとして理解できる。また,表面散乱をより正確に記述するために,反転層の電子を表面において量子化された二次元ガスとしてとらえ,表面移動度における表面凹凸の影響を量子論で扱った散乱理論が考案されている。
化合物半導体では,表面(界面)に高密度のダングリングボンドが存在し,またGaAsやGaPなどにおいて,表面欠陥,酸素や他の金属原子の吸着などによりきわめて高い密度の表面(界面)準位が,価電子帯最上部からバンドギャップの約1/3のエネルギー位置に存在することが知られている。これらの電荷(荷電中心)により,反転層中の電子は静電気力を感じ散乱を受ける(クーロン散乱)。影響は,電子の速度が小さいほど,また,自由電子によるポテンシャルの遮蔽が小さいほど顕著になる。したがって,クーロン散乱は,特に,低温における移動度の記述に重要である。
シリコン,ゲルマニウム,ヒ化ガリウムGaAsなどのバルク結晶内部の室温における移動度では,格子振動による散乱(フォノン散乱)が支配的である。表面散乱においてもフォノン散乱が重要であるが,反転層中のフォノン散乱を正確に評価するためには,電界とそれによるポテンシャルの変化を考慮した表面(界面)電子状態,表面における正確な格子振動(フォノン)の理解,電子-フォノンの結合の強さなどを知る必要がある。
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