半導体用語集
表面電子構造
英語表記:surface electronic structure
バルク結晶では,周期的な結晶格子中を電子が動き回る。量子力学によると,電子は波動的な側面を持っていて,周期的な結晶中を進む電子波は,結晶と同じ周期性を持つ関数と平面波との積に展開できる(ブロッホの定理)。この時,2π/(平面波の波長)を波数と呼び,三次元方向に対応する波数により定義される三次元べクトルを波数ベクトルと呼ぶ。また,波数(べクトル)はその電子が持つ運動量(べクトル)に比例する。結晶内部で電子波は結晶により回折を起こし,その運動に制限が課せられる。そのため,波数(べクトル)に対して対応する電子波のエネルギー固有値をプロットすると,その系で許されるエネルギーがすべて示された一群の曲線が描ける。この図をエネルギーバンド構造(バンド構造)と呼び,電子が取りうるエネルギー状態(電子構造,電子状態)を図示していることになる。
バルク結晶の電子構造の理論は,格子の完全な周期性を仮定していて,表面では,この周期性が失われるために,たとえば,結晶内部での電子波が表面により散乱されたり束縛されたりして,バルク結晶の電子構造に大きな変更が加えられるはずで,表面電子構造は一般にバルク結晶の電子構造と異なる。表面の外側(真空側)と内側(結晶側)に異なるポテンシャルエネルギーを仮定して,さらに表面付近に両者よりも低いポテンシャルエネルギーを仮定すると,この表面付近の井戸型ポテンシャルに束縛される表面電子状態が計算される。この表面電子状態をタム状態と呼ぶ。元素半導体や化合物半導体では,それぞれの原子のs電子とp電子が混成したsp³型の電子4個が原子間の結合を担っていて,その結合軌道と反結合軌道との間にエネルギーバンドギャップ(禁制帯)が存在する。結晶を形成していた化学結合が切断され表面に生ずるダングリングボンドも,sp³型電子になるため,バルク結晶のバンドギャップに存在する。この表面電子状態をショックレー状態と呼ぶ。
これらの表面状態では,電子波は表面に沿った二次元方向に波動として動き回ることができ,二次元のバンド構造を形成する。表面電子構造では,表面に沿った二次元の電子波の波数とエネルギーの関係を表わしている。表面状態の特徴は,それが表面の極近傍でだけ存在して,表面と垂直方向には(原子レベルの距離で)指数関数的に急激に現象する電子状態であることである。また,バルク結晶のバンド構造を表面と垂直方向に射影してえられる二次元バンド構造において,そのバンド構造で表わされる二次元波数とエネルギーで規定される電子波が存在できることは自明である。そのため,表面におけるバンド構造では表面電子状態(通常は実線)とバルク電子状態の射影(通常は斜線を施した領域)の両者を併記するのが一般的である。
ダングリングボンドは半導体表面で高密度に存在し,エネルギー的に不安定で,多くの場合には,表面再構成が起こり原子配列が変化してダングリングボンドの個数が減るとともに電子状態も変化する。隣同士の原子が表面で新たな結合を作るダイマーや,3個の表面原子のダングリングボンドの上にもう一つの原子が重なったアドアトムがその典型的な例である。さらに,ヒ化ガリウムGaASの(110)表面では,ヒ素原子が表面から外側に突き出し,ガリウム原子が表面から内側に引っ込んだ構造(バックル構造)を取る。この再構成により,ヒ素原子やガリウム原子の他の原子との結合の角度がより変化して,残されたダングリングボンドもsp³型からs型やp型に近づき,その電子状態も変化する。これらの結果は,表面バンド構造に反映される。
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