半導体用語集

分数量子ホール効果

英語表記:fractional quantum Hall effect

 AlGaAs/GaAsなどの半導体ヘテロ界面においては、界面に平行な二次元面内でのみ電子の運動が可能な二次元電子系が形成される(「二次元電子ガス」の項参照)。このような二次元電子系に低温で面に垂直に強い磁場を加えると、ランダウ準位充填率 v=nħ/eB が整数iとなる近傍で、ホール抵抗が (ħ/e²)/i に量子化され、縦抵抗が0となる領域が現われる(「量子ホール効果」の項参照)。ここでħはプランクの定数、eは電荷素量、nはキャリア面密度、Bは磁束密度である。1982年、D. C. Tsui、H. L. Stor­mer、A. C. Gossardは、非常に不純物の少ない高純度の試料においては、vが整数だけでなく、1/3、2/3などの p/q (q:奇数)で表わされる分数の場合にも同様の現象が起こり、この時ホール抵抗が (ħ/e²)(q/p) に量子化されることを発見した。これを分数量子ホール効果といい、これに対してvが整数の場合を整数量子ホール効果という。整数量子ホール効果が強磁場中の電子の局在という一体問題で説明されるのに対し、分数量子ホール効果は電子間のクーロン相互作用が本質的な多体効果である。したがって観測のためには、より純度の高い試料と低い温度が必要である。典型的には電子密度 10¹¹cm⁻²に対して、移動度10⁶cm²/V·s以上の試料と、数10~数100mK程度の低温が必要である。 1983年、R. B. Laughlinは、v=1/q (q:奇数)の分数量子ホール効果における電子の波動関数を書き下し、その本質が、有限のエネルギーギャップによって基底状態が励起状態から隔てられた非圧縮性量子流体であることを示した。ここで、qが奇数となるのは電子のフェルミ統計性からの要請である。この状態からの素励起は準粒子と呼ばれ、Laughlinはこの準粒子が±e/qの分数電荷を持つことを示した。さらにvが1/qからわずかにずれた状態は、v=1/qの状態に数個の準粒子を導入した状態として記述されるが、これらの準粒子は不純物ポテンシャルによって局在するため、伝導には寄与せず、したがって v=1/qの近傍でホール抵抗は量子化値 (ħ/e²)qを保つ。v=p/q (p≠1)で表わされる一般のvにおける状態は、後述の複合粒子描像によって説明されるが、その本質は v=1/q の場合と同様である。この「分数電荷励起を持った新しい量子流体の発見」に対して、1998年、R. B. Laughlin、D. C. Tsui、H. L. Stormerの3人にノーベル物理学賞が授与された。近年では、電子に磁束を付加するという特異ゲージ変換を用いた理論によって、分数量子ホール効果の理解が進んでいる。電子に偶数本の磁束を付加した場合、電子と磁束の複合粒子はフェルミ粒子である。平均場近似のもとでは、外部から加えた磁場の一部は電子に付加した磁束によって打ち消されるため、分数量子ホール効果は複合フェルミオンの整数量子ホール効果とみなすことができる。複合フェルミオン描像は、観測されているすべての分数とその階層構造など、数多くの実験事実を説明する。また、電子に奇数本の磁束を付加した複合ボゾンを考え、分数量子ホール効果を複合ボゾンのボーズ凝縮とみなす立場もある。

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