半導体用語集

量子ホール効果

英語表記:quantum Hall effect

 キャリア面密度nの試料に垂直に磁場Bを加えた時、自由電子モデルにおけるホール抵抗[=(ホール電圧)/(電流)]の値はB/neによって与えられ、その大きさは磁場とキャリア面密度の比によって決まる。一方、Si-MOS反転層やAlGaAs/GaAsヘテロ界面などに形成される二次元電子系(「二次元電子ガス」の項参照)に垂直に磁場をかけた場合、低温、強磁場においてホール抵抗がiを整数として (ħ/e²)/i という値に量子化され、その近傍で磁場やキャリア密度を変えても、ホール抵抗が変化せずに一定となる領域(プラトー)が現われる。ここでħはプランクの定数、eは電荷素量である。この時縦抵抗率 ρxx、縦伝導率σxxはともに0となり、ホール伝導率 σxyは -(e²/ħ)i に量子化される。これを量子ホール効果といい、1980年にK. von Klitzingらによって発見された。KlitzingはSi-MOS反転層における量子化ホール抵抗の値が数ppmの精度で (ħ/e²)/iに一致することを示し、量子化ホール抵抗の測定が微細構造定数 α=μ₀ce²/2ħ を決定する新たな手段となることを提案した。この功績に対して、1985年von Klitz­ingにノーベル物理学賞が授与された。量子化ホール抵抗は1990年1月1日から電気抵抗標準として用いられている。RK=ħ/e² をvon Klitzing定数と呼び、これに対して国際度量衡委員会が定めた協定値は Rᴋ₋₉₀=25、812.807Ωである。低温、強磁場において、二次元電子系のエネルギーは離散的なランダウ準位に量子化される。各ランダウ準位は単位面積当たり Nᵩ=eB/ħ 個の電子を収納することができ、したがって、電子の入っているランダウ準位の数(ランダウ準位充填率)vはn/Nᵩ=nħ/eBによって与えられる。一方、実際の系においては、不純物ポテンシャルのため各ランダウ準位は有限の幅を持ち、中心付近の状態を除いて波動関数は面内で局在している(「アンダーソン局在」の項参照)。量子ホール効果が現われるのはvが整数となる領域の近傍、すなわちフェルミ準位がランダウ準位の裾の局在状態にある時である。いまフェルミ準位が下からi番目のランダウ準位と i+1番目のランダウ準位の間の局在状態にあるとすると、ホール伝導率が -(e²/ħ)i に量子化され、その値はフェルミ準位の位置によらず一定となることが様々な理論的手法によって示される。この時フェルミ準位における状態は局在しているため直接伝導には寄与せず、したがって縦伝導率は0であり、これよりホール抵抗は (ħ/e²)/i となる。以上の説明では電流は試料の内部を流れるものと考えており、試料端の存在を仮定していない。一方、実験に用いられるホールブリッジ型の試料には端があり、強磁場中では試料端に沿って一方向にのみ電流を運ぶ一次元的なチャネル(「エッジチャネル」の項参照)が存在する。量子ホール効果は、これらのエッジチャネルに一次元のコンダクタンスに関するLandauer公式を適用することによっても説明される。実際に電流が試料のどこを流れているかは未解決の問題である。また非常に不純物の少ない試料においては、電子間のクーロン相互作用によって、vが整数だけでなくp/q (q :奇数)で表わされる分数の場合にも同様の現象が起こり、この時ホール伝導率は -(e²/ħ)(p/q) に量子化される(「分数量子ホール効果」の項参照)。これに対しvが整数の場合を整数量子ホール効果と呼び、vが分数の場合を含めて広い意味で量子ホール効果ともいう。

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