半導体用語集

朝永-ラッティンジャー流体

英語表記:Tomonaga-Luttinger liquid

 ニ・三次元において粒子間に(反発的な)相互作用のある系は、フェルミ流体と呼ばれる量子液体状態にある。一方粒子間に相互作用のある理想的な一次元系は、朝永-ラッティンジャー流体と呼ばれる量子液体状態にあると考えられている。「理想的な」一次元系とは、三次元の自由度のうち二つの方向から乱れのないポテンシャル障壁などにより粒子を閉じ込め、さらに閉じ込めにより形成された量子力学的準位の最低準位にのみ粒子が占有された状態をいう。朝永は相互作用する一次元粒子系に関する論文を発表し、初めてこの多体問題を近似的に解く理論を与え、続いて、ラッティンジャーが朝永とは少し違うモデルに対する厳密な理論を発表した。朝永-ラッティンジャー流体は、分子場を超えた扱いのできる数少ない多体問題の一つであるため理論的に活発に研究が行われてきている。これまでの研究で、朝永-ラッティンジャー流体がフェルミ流体と異なる特徴として、(1)スピンと電荷の自由度の分離、(2)物理量のべき乗依存性の二つが明らかになった。スピンと電荷の分離とは、系の特定の場所でスピン密度が変調を受け、それが広がる速度と、電荷密度の変調が広がる速度が異なるということを意味する。またべき乗依存性とは、相互作用の強さに依存した相関指数Kを用いて、たとえば相関関数がTK(Tは温度)のような特異な発散を示すことである。実験的には、従来有機一次元系と呼ばれる非常に伝導度の異方性の大きな材料が研究対象であったが、近年、半導体微細加工技術の進展により、半導体中にほぼ理想的な一次元系(一次元系とみなせるほど長さがあり、かつ基底一次元準位のみを電子が占めるバリスティックな量子細線)が実現されるようになり、理論的な予測が検証され始めている。特に量子細線の実験では、これまで不純物などによる散乱がない時、相互作用に依存して変化すると考えられてきたコンダクタンスが、相互作用しない一次元系と同じ値を持つことがわかり注目されている。また最近新しい物質開発により実現したカーボンナノチューブと呼ばれる擬一次元系(電子は二準位を占有している)、量子井戸構造を劈開、再成長した量子細線や、強磁場を印加した二次元系の端(「エッジチャネル」の項参照)に形成されるカイラルラッティンジャー系などで、一次元朝永-ラッティンジャー流体の性質の観測が試みられている。

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