半導体用語集
物理的スパッタリング
英語表記:physical sputtering
十分な運動エネルギーを有した高速のイオンや中性原子が基板表面に入射すると、衝突カスケード過程により基板原子が表面から放出される。入射した高速粒子はます表面あるいは表面層の基板原子と衝突してそれを正規の格子位置から弾き飛ばし、この弾き飛ばされたノックオン原子はさらに別の基板原子と衝突してこれを弾き飛ばす。こうした衝突カスケードにより次々にノックオン原子が生しるが、発生したノックオン原子のうち、基板原子同士の結合エネルギーに打ち勝っ運動エネルギーを有して表面から脱離したものが、スパッタリング原子である。 このような物理的スパッタリングにおけるスパッタリング率(入射粒子1 個当たり脱離する基板原子数、工ッチング率とも呼ぶ)は、一般に、表面への入射粒子の運動エネルギーと入射角に依存する。プラズマエッチングにおいて実用上興味のある低エネルギー領域(Ei<1000eV )でのスパッタリング率は、そのしきい値エネルギーEthを考慮して、Y(Ei)=A(Ei1/2-Eth1/2)と整理できる。ここで、A、Ethとも入射粒子と表面の種類に関わる定数であり、しきい値エネルギーはEth=15~40eV程度である。またスパッタリング率は入射角とともに増大してφ=60~70。で最大値を示し、それ以上の入射角では急激に減少する。物理的スパッタリングにより表面から脱離する基板原子のエネルギー分布は、表面から垂直方向の脱離に関して dF/dE=KccE/(E+Uo)3と表わされ、衝突カスケード分布(CC分布)と呼ばれる。 ここで、Fはスパッタリング原子のフラックス、Eは運動エネルギー、UOは基板原子の実効的な表面結合エネルギー、Kccは規格化定数である。高いエネルギー領域E≫(Uo での分布はdF/dE∝1/E2、また分布の最大値はE=Uo/2にある。スパッタリング率やスパッタリング粒子のエネルギー分布に関する以上の関係は、入射粒子がアルゴン(Ar) のような不活性粒子の場合も、塩素 (Cl)のような反応活性粒子の場合も同様である。しかし、活性粒子の場合は、衝突カスケードのみならず、入射粒子と基板原子との化学反応の効果が加わる。その結果、活性粒子によるスパッタリング率は、同一の運動エネルギーでほば同一の質量を有する不活性粒子によるものと比較して大きく、しきい値エネルギーは活性粒子によるスパッタリングの方が小さい。たとえば、Cl+イオンによるSiのスパッタリング率は、 Ar+イオンによるものと 比較して約1.5倍程度大きく、Cl+によるしきい値エネルギーEth~15eVは、Ar+によるEth~30 eVと比較して小さい。活性粒子入射の場合には、イオンアシスト反応の場合と似通った表面反応層の形成や、基板原子のみならず基板原子と入射粒子の化合物分子の脱離も考えられる。なお、反応活性粒子でもフルオロカーボン(CFx)のように堆積性を有する粒子が入射した場合のスパッタリングでは、特に低い入射エネルギー領域において、その堆積の効果も考慮する必要がある
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