半導体用語集

量子ドットレーザ

英語表記:quantum dot laser

 光を発生する活性層として量子ドット(quantum dot)を用いる半導体レーザ。量子ドットとは半導体の極微細結晶であり、そのサイズは電子のド・ブロイ波長と同程度か、それよりも小さい。このサイズはナノメータ領域にあるため、量子ドットはナノ構造とも呼ばれる。量子ドットに閉じ込められた電子の波は、干渉によって定在波を形成するため、電子のエネルギーが完全に量子化される(離散化する)。電子を二次元に閉じ込める半導体薄膜構造を量子井戸、一次元に閉じ込める構造を量子細線と呼ぶが、量子ドットは零次元に電子を閉じ込める究極の半導体量子構造である。
 半導体レーザは現在の光通信システムに代表される光技術に不可欠のデバイスであり、現行のレーザ(2000年現在)は光を発生する活性層に量子井戸構造を用いている。量子井戸レーザが発振するためには数mAの電流注入が必要であるのに対し、量子ドットレーザは将来的には100µA以下での発振も可能である。この他に、高温でも良好な効率で低電流発振する温度安定性および通信の大容量化に繋がる高速変調特性と狭スペクトル線幅という特徴を持つ。このため、並列光インタコネクション用超低消費電力レーザ、高温度特性レーザ、超高速変調レーザなどの実現が期待される。
 量子ドットレーザの概念は1982年、荒川と榊によって提案された(Y. Arakawa and H. Sakaki: Appl. Phys. Lett. 40, 939 (1982))。この論文では、半導体量子構造の低次元化に伴って電子の状態密度が先鋭化する結果、電子と光の相互作用がきわめて効率よく行われることが理論的に示されている。レーザの高性能化はほとんどすべてこの原理に基づく。
 80年代、量子ドット結晶の作成はリソグラフィとエッチングなどを組み合わせた方法で行われてきたが、密度、サイズ、結晶品質などの点で多くの問題を抱えていた。90年代初頭、自己形成過程を利用した量子ドットの結晶成長方法が発見された。自己形成法とは、半導体基板(たとえばGaAs)と格子定数が大きく異なる材料の原子を基板に供給し、三次元的な量子サイズの島(たとえばInAs, InGaAs)を形成する方法である。成長は分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属気相成長(MOVPE)法で行われる。通常の半導体エピタキシーと異なり、大きな格子歪のために平面状の結晶成長は起こらず、歪エネルギーを解放するために三次元島が形成される(ただし、最初の1分子層程度は二次元成長が起こり、これはウェッティング層と呼ばれる)。自動車のワックス掛けしたボディの上で水玉ができるのと似た現象である。この自己形成ドットは、十分な量子効果を示すほどに小さく、量子ドット特有の明瞭な飛び飛びの発光スペクトルが観察されている。量子化準位からの室温連続レーザ発振が報告され、そのしきい値電流は量子井戸レーザと同定度のところまで低減されるに至っている。

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