半導体用語集

電子エネルギー損失分光法

英語表記:electron energy loss spectroscopy

 電子線を固体に入射すると,電子線は固体表面および内部の電子,フォノン,プラズモンなどを励起して非弾性散乱する。散乱電子線のエネルギー分析を行い入射電子線エネルギーとの差を求めれば励起に必要なエネルギーを求めることができる。これを損失エネルギーと呼び,そのスペクトルから固体のバンド構造,内殻準位,熱振動,プラズマ振動などに関する情報がえられる。
 エネルギー損失過程のうち,電子遷移に要する励起スペクトルからは電子の充満した準位(遷移の始状態)から電子の空いた準位(遷移の終状態)への遷移に関する情報がえられる。外殻のバンド構造に由来する励起現象は損失エネルギーが約50eV以下で観測される(低エネルギー損失スペクトル)。内殻電子に由来する励起現象は損失エネルギーが約50eV以上で観測される(高エネルギー損失スペクトル)。内殻準位はエネルギー幅をほとんど持たないから,これを始状態として用いれば,電子の空いた伝導帯などの電子構造を反映したスペクトルをえることができる。すなわち,電子が充満した準位の情報を与える光電子分光法と相補的な分析手段となる。
 薄膜試料では透過電子顕微鏡と組み合わせて高エネルギー(数10keV~数100eV)の電子線を用いて試料を透過させ,バルク試料では超高真空中の電子分光器と組み合わせて低エネルギー(数eV~数100eV)の電子を用いて試料から反射させて測定する。それぞれの透過および反射スペクトルは,バックグラウンドの上にのった微細な構造として観測される。測定感度を向上させるために2階微分スペクトルとして計測することが多い。
 高エネルギー入射電子を用い計測した低エネルギー損失スペクトルからは,バルク試料のバンド構造を解析することができる。反面,低エネルギー損失スペクトルは試料のバンド構造に依存するためにその解析が複雑となり,一般の分析手段として利用されることは少ない。高エネルギー損失スペクトルからはX線の吸収端と類似のエネルギースペクトルがえられる。したがって元素同定が可能であり,軽元素の分析にも応用されている。透過型電子顕微鏡と組み合わせ元素のマッピング像をえるのによく用いられる手法である。
 固体の表面状態は反射電子分光法で観測される。固体内部と異なり表面では原子結合が切断されダングリングボンドが存在する。このために表面ではバルクのバンド構造と異なり表面準位が存在する。これら表面準位の状態および吸着原子による状態変化などが観測されている。
 モノクロメータを使えば入射電子線のエネルギー幅を10meV以下にすることができる。単色性のきわめてよい入射電子線を用いた手法を高分解能電子エネルギー損失分光法(high resolution electron energy loss spectroscopy)と呼ぶ。最高クラスのエネルギー分解能は3meV程度である。低エネルギー(数eV)の入射電子線を用い,固体表面非弾性散乱を用い表面原子・分子の振動状態を計測することにより吸着状態や構造などが調べられている。


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