半導体用語集

イオンアシスト反応

英語表記:lon¯assisted reactions

イオンと中性の反応活性種(ラジカル)を同時に基板表面に照射してのエッチング速度は、それぞれ個別に照射した場合と比較して、一般に5~10倍程度以上と大きい。このようなイオンアシスト反応は、フッ素/Si、塩素/Si、臭素/Si、フルオロカーボン/Si02など多くの反応系で顕著であるが、塩素/Alなど効果を示さない反応系も存在する。エッチング反応は基本的に、(A)反応活性種の基板表面への吸着(多くの場合、化学吸着)、(B)吸着活性種の表面層への侵入とそれに続く基板原子との反応層(SiFxやSiClx層など、変成層、混合層とも呼ぶ)の形成、および(C)反応生成物の脱離、の三つのステップを経て進行する。イオンアシスト反応では、十分な運動エネルギーを有し高速で表面に入射したイオンがどのステップに影響を及ぼすかにより、さらにいくつかの機構モデルが提唱されるが、主要なものは次の二つである。(1)化学スパッタリング(物理支援化学スパッタリングとも呼ぶ):入射イオンのエネルギーにより反応ステップ(B)が促進され、安定で揮発性の高いSiF4やSiC14のような反応生成物分子が形成され熱的に脱離する。
②化学支援物理スパッタリング(単に物理スパッタリングとも呼ぶ):入射イオンのエネルギーにより反応生成物の脱離ステップ(C)が促進され、イオン衝撃の衝突カスケードにより SiFxやSiClx(x=1 ~3)のような低次の反応生成物分子の脱離も生じる。粒子ビームを用いた超高真空下でのモデル実験や分子動力学シミュレーションにより論争が繰り広げられてきたが、 最近ではどちらの反応機構も生じていると考えられている。
塩素/Si系では、イオンの入射エネルギーが高い場合(Ei>500eV)、表面から脱離する反応生成物は低次の化合物SiClx(x=l、2)が主で、そのエネルギー分布は、純粋に物理的なスパッタリングの場合と同じく衝突カスケード分布(CC分布) dF/dE=KccE/(E+Uo)3に従っ。ここで、 Fは脱離粒子のフラックス、Eは運動エネルギー、Kccは規格化定数、またUoは反応生成物分子と表面との結合エネルギーであるが、Uo<0.5eVと通常の化学結合エネルギーよりはるかに小さい。一方、低エネルギー領域では(Ei<100eV)、反応生成物に高次の SiC13の割合が増加してSiC14も含まれ、エネルギー分布は熱的なマックスウェル・ポルツマン分布(MB分布)dF/dE =KMBEexp(-E/kT)に従う。ここで、kはポルツマン定数、KMBは規格化定数であり、分布の最大値はE =kTにある。またTは表面の特性温度であるが、T~2500Kと高く、反応生成物はイオン衝撃により形成された局所的なホットスポットから熱的に脱離したものと考えられる。なお中間のイオンエネルギー領域では、脱離粒子の運動エネルギー分布はMB分布とCC分布の特徴を併せ持つ。結局イオンエネルギーの低下とともに、反応生成物の脱離が、物理スパッタリングにおける衝突カスケードから化学スバッタリングにおける熱的な過程に移行すると考えられる。表面分析によると、反応層の最表面近傍にはSiC13が、より深い層には低次のSiClが多く分布しており、表面は~数nmの深さまでアモルファス状である。イオン衝撃の効果によって荒れた表面には多層の吸着/反応層が形成され、反応生成物分子SiClxが物理吸着により不規則にトラップされているものと考えられる。以上の特徴は、基本的にはフッ素/Si系でも同様である。
エッチング率(入射イオン1個当たり脱離する基板原子数)は、イオンの表面への入射エネルギーと入射角に依存する。実用上興味のある低エネルギー領域Ei<1000eVでの工ッチング率は、物理的スパッタリングの場合と同じく、 Y(Ei)=A(Ei1/2-Eth1/2)と整理できる。こで、A、Ethとも入射粒子(イオン、中性活性種)と表面の種類に関わる定数であり、しきい値工ネルギーは物理スパッタリングでEth~20eV程度であるが、化学スパッタ リングではEth<5eVと低い。またエッチング率はイオンの入射角がɸi =0。 (垂直入射) の時最大で,
入射角の増大とともに単調に減少する。 これは、物理的スパッタリング率がϕi =60~70°で最大値を示すのと対照的で ある。なおエッチング率の入射角依存性は、イオンの入射エネルギーの低下とともに小さくなる。
イオンアシスト反応において重要なもうーつのパラメータは,基板表面への中性活性種とイオンの入射フラックス比ξ=Гn/Гiである。これまでに述べた反応の特徴は、ガス圧力が高くて中性活性種/イオンフラックス比が大 きく(ξ≫1)、表面が活性種で飽和している状況下のものであり、エッチン グ率はイオン衝撃(入射エネルギーと入射角)のみに依存し、エッチング速 度はイオンフラックスで決まる(イオン束律速)。なおこの場合、中性/イオンフラックス比は、インアシスト反応による垂直方向のエッチング速度と中 性活性種による横方向のエッチング (アンダカット)速度との比、すなわち異方性の程度をも特徴づける。一方、ガス圧力が低くて中性活性種/イオンフラックス比が小さく(ξ≪1)、表面が活性種で飽和していない状況下では、エッチング率はイオン衝撃に加 え中性/イオンフラックス比にも依存し、エッチング速度は中性活性種のフラックスで決まる(中性種束/ラジカル束律速)。このような中性活性種が 不足する低圧力・高密度プラズマにおいて、Cl+やCl2+のような反応性イオンが高フラックス・低エネルギーで入射する状況下では、イオンは単にその 運動エネルギーを表面に与えるだけでなく、イオン自体が吸着/反応層形成に直接寄与していることも指摘されている。
フルオロカーポンプラズマによる Si02工ッチングの場合は、CFxラジカルによる重合膜堆積とCFx+イオンによるエッチングが競合し状況は複雑 である。イオンの入射エネルギーが低 い領域ではSi02上への重合膜堆積が生じるが(重合膜堆積領域)、エネルギーを高くすると、イオンの物理的スパッタリングによる重合膜の除去効果が顕著になりエッチングがはじまる (堆積抑制領域)。さらにイオンエネルギーを高くすると、CFx+イオンの反応性スパッタリングの効果により、Si02エッチング率はEi1/2を2に比例する (反応性スパッタリング領域)。脱離反応生成物はSiFx、 COxなどである。


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