半導体用語集
ラマン散乱
英語表記:Raman scattering
物質に光を入射した時,物質の格子振動(フォノン)を励起,または消滅して,フォノンの周波数分だけ異なる周波数の光が作られる現象を,ラマン散乱という。ラマン効果ともいう。特に相互作用するフォノンが光学フォノンの場合をラマン散乱,音響フォノンの場合をブリユアン散乱として区別することがある。散乱光の周波数が,入射光よりも低い場合をストークス光,高い場合を反ストークス光という。入射光がコヒーレントであっても,出射散乱光はインコヒーレントである。フォノンばかりでなく,スピン波,プラズマ振動,ポラリトン,表面ポラリトンや,気体の分子振動などの素励起との相互作用においてもラマン散乱が考えられる。これらの素励起は物質固有の特性を持つため,物質の物性評価に利用されることが多い。また入射光の周波数が変化することから,波長可変光源としても応用されている。
電磁気学でのラマン散乱は,入射光により作られた分極がフォノンの周波数で変調されるという考え方で扱える。量子論ではフォトンとフォノンとの相互作用の過程を考え,フォトンとフォノンのエネルギーの和または差の仮想的準位に電子を励起し,そこから基底準位に戻る時フォトンを放出すると考える。ここでエネルギー保存則と運動量保存則をなりたたせる条件から,周波数関係と出射光方向が決められる。後者においては,フォノンの消滅でストークス光が,フォノンの生成で反ストークス光が出る。
ラマン散乱光の周波数は,入射光(励起光,通常はレーザ光が用いられる)の周波数からフォノンの周波数分だけずれている。励起光強度にくらべて出射光の強度はかなり小さく,光学フォノンの周波数は高々数100THzであるから,ラマン散乱光を回折格子を使った分光器で観測する時,強い励起光による影響をなくす工夫が必要である。また結晶のラマン散乱を観測する時,散乱光の周波数シフトのみならず,観測する角度や偏光方向に対する結晶の方位も重要である。一般にはラマンテンソルを考えて解析する。
入射光のフォトンエネルギーが物質の吸収準位に近接すると,散乱光が強くなることがある。これを共鳴ラマン散乱という。微量な物質の評価に応用されることがある。入射光をコヒーレントなレーザとし,その強度を増すと,ある強度以上で散乱光強度が飛躍的に強くなる。これを誘導ラマン散乱という。この現象は入射光と散乱光が非線形に結合したパラメトリック増幅として説明されている。誘導ラマン散乱を利用したレーザも考えられている。
ラマン散乱は半導体や微粒子の評価に応用されている。フォノンは結晶内の原子の配位や結合状態を反映するから,たとえば非晶質や多結晶,あるいは多くの欠陥を含むような場合には完全な結晶のラマンスペクトルと異なったスペクトルが観測される。また,微粒子のように表面の面積が体積にくらべて大きくなると,表面の状態や素励起によるラマンスペクトルが観測され,微粒子の評価に使われている。
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