半導体用語集

縮退

英語表記:degeneracy

 一般的な定義としては対称性などによる自由度の減少を指す。量子力学では、物理量を表わす演算子Fの一つの固有値fに対し、線形独立な固有関数あるいは固有ベクトルが複数個存在する時、その固有値fは縮退しているという。個数がgならばg重の縮退であるという。半導体の場合にはキャリアの固有エネルギーに対し、独立な状態が複数存在する時に用いられる。通常エネルギーの低い準位からキャリアが埋まっていくが、準位が縮退している場合には、対応するエネルギー値に複数の準位が存在し、それらの準位にキャリアがどのように入るかは、外部からの変調に敏感に反応し、おもしろい特性がみられる場合が多い。半導体で重要になる縮退の例としては下記のようなものがある。(1)零磁場におけるスピン縮退。一部の対称性が乱れた構造(InGaAsなど狭ギャップ半導体ヘテロ界面の二次元電子、フェルミ面が複雑な二次元正孔など)を除けば、ほとんどの半導体構造で零磁場では上向きのスピンと下向きのスピンのエネルギ一値は重なっている。したがって状態密度を考える場合には、ファクタ g=2 をかけなければならない。磁場を加えていくとゼーマン分離により上向き、下向きのスピンに対するエネルギーが分離するため縮退は解ける。(2)L点、X点での伝導帯の谷縮退。エネルギー帯構造においてΓ点以外のL点、X点などについては等価な点が複数あり、すべて同じエネルギーを有し、縮退している。状態密度の計算に際しては等価な谷の数をかける必要があり、Γ点以外に電子の溜まる間接遷移型半導体(たとえば Si)で重要になる。また、縮退している谷が複数あるとそれらの谷間の散乱も生じる。(3)価電子帯上端における重い正孔と軽い正孔の縮退。せん亜鉛鉱型構造の価電子帯上端付近は、スピンを無視したシュレーディンガ一方程式の解にスピン-軌道相互作用を考慮することにより、 k=0 で価電子帯上端で重なる曲率の異なる二つのバンドと、k=0で少しエネルギーの離れたバンドに分離する。このうち前者は曲率の違いから重い正孔と軽い正孔に分かれるが、k=0 でのエネルギー値は完全に一致しており、バルク半導体では縮退している。縮退した二つの正孔がある点は、ダイヤモンド構造の Si、Geでも同じである。この縮退は系を量子井戸にして二次元に閉じ込めると有効質量の相違により、サブバンドのエネルギーが分離するため解ける。また、圧力の印加によっても解ける。(4)零次元構造における準位の縮退。放物線状の閉じ込めを持つ完全に対称な零次元構造を作成すると、零次元準位は系の対称性を反映して縮退する。この縮退はちょうど原子の周期律に対応するような周期的構造を生み出す。また、縮退している準位に上向き、下向きのスピンをつめていく時にフント則に対応する特性もみられる(人工原子)。これらの縮退は磁場を印加して軌道の対称性を崩したり、構造の対称性を歪めることにより解ける。

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